夏祭り

□夏祭り B
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「倉持とどっか行っちゃったんすよ。俺が倉持と来てて、そこで会ったんです」

それに即座に反応したのは伊佐敷だった。

「お?倉持も来てんのか?」

倉持が来ていると聞き、伊佐敷の表情が期待で充ちる。予想通りの反応だ、と御幸は思った。
伊佐敷と倉持の仲に良さはすでに皆の知るところである。
伊佐敷は倉持を弟分だと言い、倉持も伊佐敷を慕っていた。練習の時、試合に行く時、部活に関するどんな時も、同じ一軍で同学年の自分より倉持は伊佐敷といることの方が多く、自分を可愛がってくれる先輩を立てているんだろうなと思いながらも実は御幸はこっそり妬いていた。
倉持が伊佐敷に特別な感情を抱いているわけではないと分かっていてもそんな時はやはり少し寂しいと感じてしまうのだ。
それを一度倉持に伝えたことがあるが、倉持はさも意外といったような顔をして、そして笑った。
「俺と純さん?あるわけねーだろ!そりゃ純さんのことは好きだけど部活以外で会うことねーし、もしそうなら俺はお前とこんなコトしねーよ!」そう言ってキスをした倉持を御幸はもう疑ってはいない。
しかし、やはり妬くものは妬くし、寂しいものは寂しいのだ。
そんな自分の気持ちも知らず(知るわけもないのだが)、伊佐敷は伊佐敷で倉持が可愛くて仕方がないらしい。
昔の自分に似ているから放っておけないと、ポロッと漏らしていたのを御幸は聞いたことがある。
結局のところ、お互い純粋に先輩後輩として好意を持っている二人の仲は御幸にはどうしようも無いのだ。

「はい。もうすぐ帰ってくると思うんすけど」

そう言いながら御幸は偶然にも集まってしまったいつもの面子を見て、「こりゃ今日はデートどころじゃないな・・・」と半ば諦めつつ、「どうか倉持が戻る前に行ってくれ」という祈りにも似た気持ちを抱く。

こっそり溜息をついたことには幸い誰も気付いていないようだった。
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