藤堂平助追悼

□甘えん坊
6ページ/7ページ

「俺はいいんだよ。お前の方が重傷なんだから、そろそろ寝ろ」
「はぁい」

 今度は素直に頷いた。手をどけると、目は閉じたままである。頬を伝う汗を手拭で拭ってやる。

「あ、そうだ。じゃあ」
「却下だ」
「まだ何も言ってないよ!!」
「どうせろくなことじゃないだろ」
「ただ新さんに子守歌を」
「絶対歌わないから!」

平助は不満そうに「左之さんなら歌ってくれるのに」などとブツブツ言っている。新八は子守歌を歌う左之助の姿を想像して笑いを噛み殺した。

平助に目を瞑らせてしばらく黙って団扇で扇いでやっていると、喧しい蝉の声に混じって規則正しい呼吸音が聞こえてきた。頬をわずかに緩ませ、瞼を開ける様子もない。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ