藤堂平助追悼

□意地っ張り
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茹だるように暑くて稽古をする気も起こらないある日、たとえ心地良い気候でも進んで稽古をすることなど滅多にない左之助はいつものように縁側に横たわり惰眠を貪っていた。
そんな左之助とは対照的なのが、近頃試衛館の食客となった藤堂平助という男である。十代の後半で既に北辰一刀流の目録まで得ているのに、なぜかしがない町道場である試衛館にやってきたという酔狂な男だ。左之助が転がっている縁側から室内を覗き込むと、平助が一人一心不乱に木刀を振っているのが見えた。

(暑い中ご苦労なこった)

心の中で呟いて、大きな欠伸を一つ。はだけた胸元にも大粒の汗が滲む。本当に暑苦しい、ゴロリと寝返りをうってもそれは変わらない。
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