目指せ普門館!?〜私立麗凰高校の挑戦〜
□2.a poco a poco【ア・ポコ・ア・ポコ/伊】
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午後五時。
部室に戻ってきた部員たちは合奏の形に椅子を並べて着席した。
アルベルトは学指揮の関谷が指揮台に立ってチューニングを始めるのを部室から眺めていた。
「じゃあ音階行きます。」
関谷の指揮に合わせて音階練習が始まった。
しばらく音階と音合わせをした後に関谷がアルベルトを見た。
「基礎練終わりました。合わせますか?」
「ああ。今日は関谷が振ってくれ。俺は聞かせてもらう。」
「分かりました。
じゃあ課題曲1番から通します。」
「はい!」
アルベルトはスコアを見ながら椅子にかけて演奏に耳を傾けた。
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シン、と最後の音の余韻が消えた室内。
用意した楽譜を全て通しで演奏し終えて部員たちはアルベルトの方を見た。
アルベルトはスコアを閉じると関谷に変わって指揮台に立った。
「…お前たちが一生懸命なのは伝わった。」
彼の第一声に部員たちがざわめく。が、次の一言で室内は静まり返った。
「だがそれだけだ。」
恐々アルベルトを見上げる部員たち。彼らを眺めながらアルベルトは率直な感想を言った。
「まず譜面が読みきれていないな。書いてある音を追うので精一杯になっている。
技術だの表現だの以前の問題だ。
それと狭い部屋に慣れすぎて音が全く飛んでいない。こんな音を観客に聴かせる気か。
観客はホールの後ろまで居るんだろう。そこまで最高の音を飛ばせるようにするんだ。
一生懸命は悪くないがそれを音に出すな。観客も審査員も過程を聴きたいんじゃない。
死に物狂いで頑張っていたとしても音には余裕を出せ。でなきゃ結果なんか残せないと思え。
以上が今聴かせてもらった限りの感想だ。質問は?」
シンと静まり返った室内。
各曲の部分を指導されるどころかそれ以前の問題を次々指摘されて誰も何も言えずにいた。
そんな彼らをもう一度見渡してアルベルトは言った。
「やる事は山ほどあるぞ。付いてこれるか?」
「…はい!!」
アルベルトの言葉に部員たちは顔を見合わせて大きく返事をした。
『熱意だけは本物だ。』
アルベルトはニヤリと笑むと今後の指導計画を考え始めた。
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