籠の鳥が飛び立つとき(004)
□8.理由
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それから何も話さなくても皆が計画に浮き足立っているのは一目瞭然だった。
ギルモアの部屋に集まれば顔を見合わせて目配せをし合う。007などはやたらと芝居がかった台詞を喋り002に静かにしろと言われる始末だった。
そんな中004だけはへの字口を崩す事はなかった。共に脱出する事に、コトコが首を縦に振らないからである。
「ねえコトコ、どうしてか、話してはくれない?」
そんな彼らを見かねて003がコトコに話しかけたのは、008が仲間に加わってしばらくしてからだった。
「…逆に私が聞きたいわ。あなた達の計画に私がサポートする、それの何が気に入らないの?」
003に与えられた居室のベッドに二人並んで座って、監視システムを弄ってからコトコと003はぽつぽつと言葉を交わした。
コトコは資料の間に挟んだギルモアからの提案書を眺めながら003に話しかける。
「内部からの陽動と脱出ゲートまでの警備システムの解除、その他細々とやるべき事があるわ。博士の仲間に頼むにしても、人手は必要なのよ。」
「それは分かるけど…あなた004が好きなんでしょう?一緒にいたいとは思わないの?」
003が尋ねるとコトコはサッと頬を染め、俯いたまま静かに頷いた。
「アルベルトの事が好きよ。だから、彼には生きて欲しいの。
その為なら私は何でもする。」
「…命を永らえるだけが人の幸せではない事は、あなたもわかっているでしょう。」
既に通常の人生よりも長く生きている二人。静かな003の言葉にコトコは顔を上げた。
「分かってる。だからこれは私のワガママなの。
アルベルトの為って言っておきながら、私が自己満足の為にしたいだけなのよ。」
そう言ってコトコが話した内容に、003は頭を殴られる様な衝撃を受けた。
「コトコ、その事…004に話したの?」
「いいえ。話さないままでいたかったんだけど…そうも行かないみたいね。」
泣きそうな笑顔で自分を見つめるコトコを、003はぎゅっと抱き締めた。
「ごめんなさい、今まで気が付かなくて…。何か方法があるはずよ!ギルモア博士にも相談して…。」
「ありがとうフランソワーズ。あなたと友達になれて良かったわ。」
コトコはしっかりフランソワーズを抱き返して静かに呟いた。
コトコの悟ったような声音に003はいつまでも涙を止める事ができなかった。
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