グレ期
□チョコ
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家に帰るといつものように三井がいた。他人ん家のソファーで堂々と寛いでDVDを見ながら棒付きアンパンマンチョコをガリガリ齧っていた。
「…なんだそれ?」
「んん?」
これ?と顔半分になったアンパンマンを持ち上げる三井に沈黙で肯定を示す。
「変なおっさんに貰った。」
「…食うなよそんなモン。」
呆れた顔を返すとむくむく唇が尖ってくる。
「ちげーよ。いつものコンビニ行ったら店員のおっさんがチョコくれるっつーからこれがイイって貰ったの!」
なんだその話は。…まぁ、いいけど。
「懐かしくね?たまに食うとうまいよな。」
今度は笑顔だ。「へいへい」と適当に返してソファーに腰を下ろすと、映画は濃厚なラブシーンの最中だった。
「…なぁ、キスする?」
イタズラっ子みたいな笑顔で擦り寄ってくる。疑問形だがこれは命令。シカトなんかしたら忽ちヘソを曲げてしまう。そのうえ、さも俺が“したかった”みたいに仕向けてくる。
もっと可愛く誘えねーもんかね…
長い髪に指を埋めて項を引き寄せる。触れると誘うように開く唇に舌を差し込むと俺は眉を顰めた。
「…甘ぇ。」
俺の嫌がる顔を見て三井はケラケラ笑い始めた。
「調度イイじゃん。バレンタインだし。」
あぁ、そーゆー事。
「だったらモノよこせ。」
「んん?これは俺ンだ。」
残ったバイキンマンを遠避けられてしまった。
…そうじゃねーだろ。
別に何も欲かねーけど。可愛い顔で与えられるのだけ待ってるお前。さっきのキスみたいに。ちょっと癪だろ?
「ん。」
そして唇を突き出してきた。
「鉄男はこっちの方が嬉しいだろ?」
これだ。
あまりの図々しさに笑ってしまう。
そんな小さな尻を持ち上げて膝の上に座らせた。
「よこせ。」
笑って言うと少し拗ねたように頬を染めて、それでも素直に唇を付けてきた。
おっさんのチョコは意外に悪くない甘さだった。
::::::
End
実はそんなチョコあるのかすら不明。