短編3

□LAST DAYBREAK
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その肢体は煌々と明かりの降り注ぐソファーの上で妖艶に蠢いていた。


「や、…あ…ッ!」


犬の様に四つん這いにさせ自分の目の前に晒された秘孔に舌を這わせた瞬間、身体を支えていた両肘は力を無くしそ上体をソファーに倒してしまった。もう一度そうなってしまってはどうにもこうにも起き上がる事が出来ないのか、眼下で震える男は何とも言えない羞恥の色を覗かせながら、その顔を革張りのソファーに擦り付けた。
尻だけが高く上がっている体勢はこちらとしてはやりやすい事この上なく、相手の羞恥などお構いなしに行為に没頭していると双丘の隙間から堅くなった陰茎がちらりと覗いた。


「やらしいね、こんな事されて勃っちゃうなんて」


勿論皮肉の意も込もっていた。長年押し留めていた自分の欲望のままにこの人の身体を隅々まで暴くのは酷く愉しく、また満たされる思いでもあった。しかしながら暴けば暴く程、自分の知らない相手の姿を見れば見る程、一体この人がいつどこでどんな経験をしてこんな風な身体になったのかを思いどうしようもない嫉妬心に燃えてしまうのだ。どうして自分がこんな事を考えてしまうか分からなかったが、暴く事の快楽と自分の知らない部分を垣間見た時の不快感が交互に襲ってくるのは紛れもない事実だった。その矛盾に息苦しさを覚えて口を開けば、相手を蔑む様な台詞しか出て来ない。ところがそんな風に罵声染みた言葉を発しても当の本人はそれすら快楽に変えてしまうようで目に溜まった涙を時折零しながら何とも言えない被虐的な表情を見せるのだった。


「お尻舐められて気持ち良いの?次はどうしたら良い?俺初めてだから教えてくんなきゃ分からない。どこをどうされたいか、ちゃんと言って」


こんな明るい部屋の中でまじまじと秘部を見られて、それだけでも耐え難い羞恥だと言うのに。そんな事言える訳がないだろう。どこをどうして欲しいかなんて。


向けられた瞳は間違いなくそう語っていて、快楽と羞恥の狭間で揺れる複雑な表情がまた俺の加虐心に火を付ける。自分の中にこんな欲望があるだなんて思いもしなかった。一人の人間を、心の底から支配したいだなんて。
誰かの手によって作られたこの忌しい程に淫らな身体を何としてでも塗り替えてしまいたい。だけどその忌々しく淫らな身体に翻弄されて虜になっているのだから本当に自分の欲望は矛盾している。


もうどうにも逃げられない。


「早く、言えよ」
「麗、待っ、」
「いつも男誘ってるようにやれば良いんだよ」


そんなんしてない、と切迫詰まった声が響いた。男を受け入れる事に慣れた秘孔は舌を滑らせる度に妖しく蠢き、まるで初めからその為に作られた器官のような錯覚を引き起こした。ソファーに顔を擦り付けながら必死に快楽と戦う姿は普段の葵からは想像も出来ないもので、普段戯けてばかりのポーカーフェイスがこんな風に声を上げる事など誰一人として考えもしないだろう。今目の前に広がる現実は俺だけの物だ。明日になっても明後日になっても、誰かに見せるつもりなんてない。ずっと自分だけの秘密にしなくてはならない。もうこれ以上誰にもこの人の魔性を悟られてはならない。
そんな脅迫観念が頭の中をずっと巡っていた。それは支配する側にいるようでいて、もう既に支配されてしまっている俺の行く末を思わせる決定的なものだった。


「も、挿れて、…麗、早く、」


もう逃げられない。逃げられないのだ。永遠に俺はこの人のものだ。
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