短編小説

□恋が始まる瞬間
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コンコン――「なぁ、真希?」
パパはとびきり優しい声を出して、私の部屋のドアをノックした。「いいよ。」返事を言い終わるより先に、扉は勢いよく開く。パパは2枚の紙切れを申し訳なさそうに差し出した。

「こういうのは? "私、先輩とデートしてあげないこともないけど"」
ポッキーの袋を破りながら、ちーちゃんは面白そうに言った。「朝からお菓子って太るよ?」おいしそうだな、とそれを目で追いつつも、冷めたように言ってみる。
「あはは、ならあげないよー」
ちーちゃんは、ポッキーを1本口にくわえて、袋を机の上に置いた。茶髪のポニーテールが揺れる。
「もう、そうじゃなくて! ちーちゃんの明日の予定を聞いたんだってば」
「まぁまぁ、あたしに任せなさい。初デートは手堅く映画かな?」
ぺろりと手についたチョコレートを舐める。私は無言でポッキーに手を伸ばす。ちーちゃんは少し笑っただけで、特になにも言わなかった。
「チケットがあるから場所は……って、だから先輩を誘う訳じゃないのに」
「あ、次辞書借りてこなきゃ!」
ちーちゃんはハッとしたように席を立って、そのままどこかへ走っていった。
「真希ー、明日ちょっと無理!」戻ってきてから話せばいいのに、廊下の方から叫び声がする。私は恥ずかしくなって、でも、無性に勇気が湧いてきた。
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