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□《の》野良犬と飼い猫
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『……予報は曇りのち雨…今日は一日中…冷たい雨が…降り続けるでしょう……』

何となくかけられたカーラジオからは高級車にはにつかない掠れた音がしている。
情報屋をはじめてからずっと続いている粟楠会への定期報告。
特に目立った動きもなかった今日は軽く世間話を…といった感じだ。
まぁ、話す内容は世間に知られちゃいけないことばかりなんだけど。

臨也がこの車に乗った時はまだかろうじて雨粒は落ちていなかったのに、半時も立たないうちに空はどんよりと曇り、雨が降り始めた。
窓外の様子にぼーっと目を向けサーっとうるさいほどの雨音に耳を傾ける。

雨が伝い、ゆがむ景色。
その向こうに見知った姿を見つけたきがした。
「どうかしました?」
臨也はまったく動揺しなかったつもりだが、わずかな変化に気づいて四木がそう聞いた。
こういうところで彼はするどい。
さすが、といったところだろうか。
「別に。」
そう答えて意識を話に戻すけれど、窓外をびしょ濡れで通り過ぎた姿が気になってしょうがない。


「今日はこの辺で。」
臨也は適当なところで話を切るとそう言った。
不自然だったとうか、とも思ったが四木は大して気にした様子でもなかった。
「そうですね。おい、情報屋さんのお帰りだ。」
「はい。」
その言葉に従って運転席にいた男が車外に出て臨也側のドアを開けた。
彼の部下はよく飼い慣らされている、といつも感心してしまう。
四木にとっては自分もこうした飼い猫の一人でしかないんだろうけど、なんてことをぼんやりと考えた。
(あいにく俺は気まぐれな猫だから、なかなか言うように動いてはあげないけど。)
そう思いながらも、臨也飼われてる以上は一定の不文律のなかで生きて行くしかないってのも十分わかっていた。
「おい。傘を。」
四木がそう言うと、黒くて大きな傘を臨也に向かって差し出した。
「じゃあ、またよろしくお願いしますよ。」
大の大人ひとりが入ってもまだあまりそうな大きな傘を受け取りながら臨也はそう言った。


差した傘を肩にかけ、喧騒に身を任せ池袋の街を歩く。
池袋を離れ新宿に拠点を移したからと言って臨也はこの街が嫌いになったわけではなかった。
離れたからこそなおいっそうに、この街が持つ独特の雰囲気を愛おしく感じていた。
学校帰りの高校生が頭に鞄を乗せ、雨をしのぎながら走り抜ける。
シャッターが降りたままの店先で黄色いバンダナを巻いた少年達がたむろしている。
そんな様子を見ながら、臨也は軽やかに歩いて行く。



ふと、角を曲がると自動販売機の脇に蹲る影を見つけた。
あちらは何かに夢中なようで、こちらにはまだ気づいていない。
ゆっくりと臨也は近づいていった。
「ねぇ。シズちゃん、こんなところでなにしてんの。」
上から見下ろしながらそう聞いた。
彼の足元にはくしゃっと潰れたアメリカンスピリットの箱と無残に中身を曝け出した煙草。
「あぁん?」
カチカチと何度も何度も火のともらない手元の煙草にライターを向けていた手を止めて彼は臨也のことを睨み返した。
金色のその髪からはぽたぽたと雫が零れている。
「こんな雨の中、傘もささないで何やってんの。頭の先から足元までぐっしょり濡れてるんだから、煙草に火がつかなくて当たり前だろ。全く、相変わらず頭が悪いんだから。」
まったく、と臨也は大げさに肩をすくめた。

ギリッ

手に持っていた煙草を地面に落とすと彼は立ち上がり靴先に力を込めてそれをつぶした。
「うるせぇ、ノミ蟲。」
彼は臨也の襟元を掴むとぐっと引き寄せた。
「ちょ、んんっ…」
強い彼の力で引き寄せられて、傘が臨也の手から離れた。
最初から乱暴なソレで弄られ、臨也は苦しさに耐えながらも身を任せた。

―くちゅり。

好き勝手に遊んで満足すると、彼はようやく唇を離した。
「煙草の代わりなんてごめんだよ。」
口元を拭いながら臨也は言った。
「―黙れ。」

低い声色でそう言うと、彼は再び臨也の唇を塞いだ。


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野良犬…静雄
飼い猫…臨也
なんて、二人にぴったりな言葉♪
イメージ的にシズちゃんは雨が降ってても傘を差さずにずんずん歩いてそうなイメージです。

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