短編 乙
□朱い達磨と肌色の武士
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【その昔:どこかの廃館】
『ヒィィィィィィィィィィイホォォォォォォォォォォォ!!』
干からびたカボチャを頭に被った悪霊が、軍手に持ったランタンをゆらりとかざす
その中の灯火が揺らめくと目の前の女が炎に包まれた
『ヒィィィィィィィィィィイ……ホ?』
にしては炎が小さい
女の人影にも苦しんだり悶える様子は無い
と言うより…
「Trick or Treat」
真横から話し掛けられた
視界の狭いカボチャの穴の奥にある目には死角だか、目の前で焼き殺している筈の女はすぐ真横にいた
現状を理解出来ない悪霊が標的を確認しようと向き直る
「火達磨になるのは遠慮しとくわ」
燃えていたのは女…達磨の付喪神朱京士郎では無く、場所を入れ替わった五角板だった
「ちょっと失礼…」
京士郎が悪霊の右手…ランタンを持つ腕を掴むと、腐敗した肉が捻れ、潰れ、弾けた
『ヒギャァァァァァァァ!!?』
「普通は交渉の一つもする所なんだろうけど…あんた約束守らない事で有名だからね」
圧壊した腕からランタンをもぎ取り、喚き散らすカボチャ野郎に腕だけ投げ返す
「収集家の我儘で腕千切られちゃあんたも堪ったもんじゃないだろうけど…まぁついて来た嘘のツケ払いって事で」
そしてランタンの蓋を開け、そのまま振るう
中から飛び出したのは燃える木炭三、四本
悪霊の目の前に落ち、瞬く間に燃え上がる
『ヒ、ヒィィィィィィィィィィィィィィァァ!?
アチャ、アチャ、アチャァァァァァァァァ!!!?』
「んじゃ、私はこれで…」
直に焼け落ちるであろう館から脱出せんと、窓の縁に脚を掛け
はたと動きを止め、袖の中をまさぐる
「……」
出て来たのは二つのおはぎが入った包み
こっちに来る前に人間から貰ったものだ
「ほい、Treat」
それを炎の海と化した部屋に投げ込む
おはぎはそんなに好きではないのだ