短編 甲

□お遣いと浴衣と酒と花火と
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【旧都:繁華街】





人間界を見捨て、幻想郷のルールも今一つ性に合わない妖怪達は地下に潜った

先日の間欠泉騒ぎ以来、弾幕ごっこや地上との交流は“比較的”増えたが、依然として地下は地上とは一線を画していた

外れ者や嫌われ者、極悪人等の逃げ込む場所でもあるが、独自のコミュニティや習わしによって治安は保たれていた

価値観や拘束から解放され、むしろ活気すら感じる


それが地獄の都、旧都



「さ、咲夜さん…」


「何?」


沢山並ぶ薬草の壺を咲夜さんはリストと見比べていた


「一つ位…持って下さい…」


既に両手は塞がり肩にも引っ提げ、頭の上に重ねた購入品が落ちない様にバランスを取りつつ訴えたが


「嫌」


案の定受け流された


「ほ、ほら! このポシェットなんて咲夜さんに似合」

「お嬢様の御召し物よ」


「ぬうぅ……」


頭に乗せた荷物の塔の根本がガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソガサゴソと悶えて揺れる

美鈴の鼓膜も震える


「…これ、二袋お願い」


屋台の妖怪が手慣れた手つきで薬を紙袋に入れ、突き出す


「ありがと」


袋を受け取り、その手に代金を乗せた


「……」

「……」


その際、何とも言い難い暗く、重い視線を向けられた


「ありがとう」


そこは咲夜さん

お手本の様な笑顔でやり過ごす


「咲夜さん」


「何?」


「気付いてると思いまアムッ!?」


「当然よ」


紙袋二つの端を口に入れられた



「予想はしてたけど…結構あからさまなのね」



振り向いた時、旧都の妖怪達が私達を取り囲んでいた



第三者からしてみればメイド服とチャイナ服はこの旧都ではかなり浮いていた様だ


やはり、余所者を受け入れる場所ではなかった


「…何か?」


やはりお手本の笑顔で問い掛ける

取り巻き達は値踏みする様な、いつでも飛び掛かれそうな殺気に近いものを放っていた


「地上の方ぁ?」


着物を着崩し、口に紅を塗った女郎らしき女が煙管を手にユラユラと近寄って来た


「えぇ」


「そちらの荷物持ちさんは置いといて…」


「ウぇ?」


「あなた、人間じゃなくて?」


咲夜さんの全身を舐める様に眺める

一歩で踏み込める様に気を練ろうとしたが、咲夜さんに背中で止められた


「…えぇ」


「ふぅぅぅん……結構な上玉じゃないさ」


取り巻き連中からも含み笑いが聞こえる気がする


女郎は煙管をくわえて続けた


「ちょいとウチに来て働いてみないかい? 見た所どっかの使用人みたいだけど、そこよりは良い目」


コンッ


「見せっ……」


女郎の煙管が、木管と金管の境でスッパリ切れた


「申し訳ありませんが」


…咲夜さんがナイフを太股に戻した


「私の居場所は紅魔館…主はお嬢様だけですので」
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