短編 甲

□お遣いと浴衣と酒と花火と
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取り巻きの熱気が強まった…


「……ほぉ〜ん…?」


女郎は半分になった木管を歯と舌で口に収め、ボリボリと咀嚼した


「荷物持ち付けてまでこの旧都にお使い頼む世間知らずなお嬢ちゃんに ねぇ?」


女郎の絡み付く言葉も咲夜さんは笑顔で切り裂いた


「仕方ありませんよ こんな下賎な輩がこの世界に存在するなんて、お嬢様の育ちの中では知りようもありませんから」


「はくやひゃん!!」


「美鈴、物をくわえたまま喋」



ジャキンッ!!



「……」


女郎の右の袖から鎌が延び、地面を少しえぐった


「…誰の育ちがどうだか知らないけどさぁ…」


女郎は今までにない笑顔

頭に来てるから と言うのもあるのだろうが、女郎には核心もあったようで


「あんたが分かってないのは間違いなさそうだねぇ?」


全方向から物騒な音と息遣いが聞こえる


「ここがどこで、どんな所か…!」


女郎の目は、狩りをする蟷螂の目だった


「美鈴」


「ふぁい!?」


「ニ秒作って頂戴 逃げるわよ」


「れひたらひかんをほめて…」


「時間を止めたら貴女も動けないでしょ?」


「、」


「貴女が手放した荷物を時間を止めて私が回収、直後に貴女が稼いだニ秒で逃げるわよ」


「……」


「ガタガタ言ってんじゃ…!?」




コーーーン………!!








「…あん?」


野次馬、取り巻き、女郎、そして私と咲夜さんが音のした方に振り向く




「……」




緑色の髪を頭の両側で纏めた小柄な少女が釣瓶(つるべ)に入っていた

さっきの音は、彼女が地面に着いた時の音だろうか


少女が申し訳なさそうに頭を下げる




自分の体程もある漆塗りの杯を抱えていた




「ぉぃ、あの餓鬼…」
「つぅかあの杯って…」


「…ゥむ?」


急に周りがうろたえ出した


「…けっ」


ジャギっと鎌が袖に引っ込んだ


「興が削がれた…帰るわ」


落ちた金管を広い、女郎はユラユラと立ち去った


周りの連中もこちらを睨みつつ立ち去って行く



「美鈴」


「?ッはい?」


咲夜さんが口から紙袋を取る


「行くわよ」


「?……は、い…」






擦れ違い様に見えた咲夜さんは笑っている様に見えた



自嘲してる様な、見下してる様な笑顔だった



カコンッ カコンッ カコンッ


「?」

「美…?」


振り返ると、さっきの少女がヒョコヒョコと釣瓶ごと飛び跳ねこっちに近寄って来た


「…?」


杯には紙が一枚


「……」


両手が塞がってて取れない


「何これ?」


咲夜さんが紙を手に取ると…


「…地図みたいですね」


簡単な、手書きの地図


カコンッ カコンッ カコンッ……


「あっ…」


少女はそのまま恥ずかしそうに跳ねて行ってしまった


「何なんでしょう…」


「…行くわよ」


「は、はいっ」


結局荷物は紙袋二つしか減らず両腕と首を酷使して後を追った
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