短編 乙

□朱い達磨と水色の冬
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【後の幻想郷:京士郎の家】





(……さて)


朱京士郎は外に働きに出る事が多い 出ずっぱりと言っていい

自宅はおろかこの郷、果てはこの島にすら長期間いない事も多い

なので家には錠前や結界等々“戸締まり”を厳重に掛けて出掛ける

それでも入り込もうとする泥棒や妖怪はいる様で、帰宅時に突破を試みられた形跡が見つかったりするし、たまたま帰宅した時に居合わせた不幸な盗人(未遂)もいた


「……」


(どう言うこったい)



なので、玄関(兼居間)にちょこんと座って足をパタパタさせる毒気の無い幼女と目が合い、京士郎は示すべき反応に迷った



「ぁー……こんにちわ?」


「ん」ペコリ


挨拶出来るのね、いい子いい子


「えーと…お嬢ちゃん名前は?」


「ろっか」


「六課?」


「六花」


…名乗って、立ち上がり、私の方に駆け寄って来て、腰に抱き着いた


……何この娘 超可愛い

超可愛いが、職業柄可愛さを盾に“やらかしてくれる”曲者とも会う機会は多いので、それなりに警戒はする


(とりあえず囲炉裏に火を…)


灯そうとして六花の頭を撫でつつ床に上がろうとして、気付いた



寒い めっさ寒い

ぇ何これ 畳に霜が降りてるんですけど


(…今何月だっけ…)


南蛮渡来のかれんだあを見る 最後にここを出たのはこの日だから……三月の終わりか、今は

…ぎりぎり冬、だよね

事実この島に来てから玄関を開けるまでも寒かったし、この辺りも別段寒い地域ではない


「……」


玄関の外に出直してみれば、正午過ぎのようやっと暖まった空気をいじめる様な冷たい風が吹き抜ける

うん、確かに冬だ



冬だが、戸締まりをした屋内をここまで冷やす様な時期や立地ではない筈だが

氷室じゃあるまいに


「…あんたの仕業?」


黒いおかっぱ頭をワシャワシャ掻き回せば、きゃーと笑って目を瞑る

きゃーじゃないよぉ きゃーじゃぁ


うん、こう言う場合はこの娘の仕業って流れよね


「…紫ぃ〜」


呼べば出て来る悪友の名を呼び


「…………冬だったか」


熊だかカエルだかの様に寝ているであろう事を思い出す

肝心な時にお喋りの効かないあんちきしょうは、もうしばらくは音信不通の眠り姫だ


「さて…」


改めて息をつく


「どうしましょ?」


「?」


とりあえずこの家は駄目だ、寒過ぎて温め様が無い
薪の無駄だ


「となると…」


よっこいしょっと幼女を持ち上げ、右義手の肩に座らせる

幼女は幼女で高い視点にまたもきゃっきゃとはしゃいでいる


(体温は普通なのね)


触った所から冷やされると思ったが、京士郎の髪に掴まる小さな手は子供相応の暖かさである


「えーと確か……あっちか」


幼女の重心をしっかり義手の肩に落とす


目的地を見定め、義足の一踏みで寒空へと飛び出した
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