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□涙が似合うようで
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『なぜお前が泣く』
「ぇ、ダメ?!」
『いや、駄目じゃないけどさ。あんたのじゃないんだから泣く意味が・・・ちょっと。』
「えぇやん。えぇやん。謙也は勝手に泣かしとき。」
「白石ひどっ!」


結婚式。自分には一生縁がないんじゃないかと、何回も疑った。
けど、出来た。物好きが世の中には本当にいるらしい。
いやはや、あり得ない。


「てか、行かなくていいんすか?待ってると思いますけど」
「あぁ、そうやな。ほれ、行き」
『う、うん。』


白石に言われ、控え室を出る。
花嫁さんはこちらです。っと言われ、白石達とは別々にされる。
やばい、ドキドキしてきた。柄でもない。抑えな。
深呼吸してみる。落ち着かない。


『ハハ、うちらしくない・・・』


悲しい独り言が響く。
逃げ出したくなってきた。
こんな心理状況で結婚式なんて絶対無理。


『ち、千歳・・・』


"助けて"その言葉は音にならなかった。
心臓はどくどくと脈を打ち、体に力が入らない。
いま直ぐにこの手を繋いでほしい。
いつものように、大丈夫ったい。って笑ってほしい。
じゃなきゃ、


「なんね?」
『・・・』
「おーい?」
『・・・なんでいんの?』


先に会場に行ったはずだ。
いるわけない。幻覚?ぇ、うち死ぬ?


「お前さんが来るのが遅いからったい。抜け出してきたっと。」
『いやいや、抜け出すとか、無理だろ。てか、待っとけよ』


どんだけ抜けてんだ。
空気読めよるようになれよ、いい加減。


「・・・」
『な、なによ。』


ジッとうちのことを見る千歳。


「なんで、泣いとうと?」
『え・・・』
「結婚、嫌になったと?」


自分の頬に触れて見る。確かに濡れている。
緊張で泣くとか恥ずかしい。
ゴシゴシと拭い、千歳を見る。


『・・・うん。ちょっとね。』
「そいね・・・」
『でも、もう大丈夫。』
「?」
『あんたの顔見たら、吹っ飛んだ。てか、バカらしくなった。』
「酷い言い草やね」
『うん。そうかも。でも、ありがとう』
「何がっと?」
『うちを好きになってくれて。選んでくれて。』


一拍あけて、千歳の瞳から涙が出てきた。
ぇ、ちょ、何、今度は!?


『ち、千歳・・・?』
「俺の方こそ、ありがとうったい!」


そう言ってうちを抱き締めた。
なんだ、千歳も緊張してたのか。
そう、うちを抱きしめる腕の震えから感じ取ることが出来た。



涙が似合うようで
(ありがとう)

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