]-Story
□不思議の国の神田
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白ウサギ…のはずだったものはアレンとなり、その上神田のことは知らないときている。神田はアレンの嫌がらせかと思ったが、どうやら本当らしく、また混乱してきた。口振りからしてメアリーアンとはアレンの使用人で、そのメアリーアンのことを神田だと勘違いしている様子だ。神田の切れやすい血管が切れる前に姿のないチェシャネコの声がそれを止めた。
『行っておやりよカンダ』
「ネコか、どこにいる」
「何に話しかけているのです?早く扇子と手袋を」
舌打ちを一つして神田は白ウサギのアレンの家に入っていった。小さくなる前に窓から見た扇子と手袋のあった部屋を探す。探している最中でも神田は納得がいかない。
「なんで俺が…メアリーアンって確実に女だろうが。モヤシめ…つうか、なんでここにモヤシがいるんだ?しかも俺のことを知らない…モヤシが白ウサギってことは俺は誰だよ。そういや、こういう話なかったか?チェシャネコ、チェシャネコ…ダメだ、思い出せねえ。くそ、なんで俺がこんなめに…」
ぶつくさ文句と疑問を口にしながら神田はドアを開ける。窓から見たようにテーブルに扇子と手袋、そしてなかったはずのビン。ビンには先程のように【DRINK ME】とは書かれてはいなかった。気になって蓋を開けて匂いを嗅いでみても無臭、水…だと判断しておく。
「メアリーアン!!急いでください!!」
『ほらお急ぎ、カンダ』
チェシャネコは火のない暖炉の前のロッキングチェアーに揺られながら現われた。これは不法侵入になるのだろうか…
「この水は普通の水か?」
『普通って何かな?』
「飲んだら…体が縮んだりとかするか?」
『さあ?飲みたかったらお飲み』
「いっちょまえに誘惑してやがる…」
表情の読めない声だけの誘惑。正直言って喉が渇いていたところ。そして妙な好奇心があった。
「水…か?」
『どうするんだい?白ウサギがお待ちだよ』
チェシャネコをじっと見てみても、笑う口元からは感情が読み取れない。ロッキングチェアーが一定の間隔で軋んだ音を鳴らす。それとともにチェシャネコの先だけが黒い、灰色の尻尾もしなやかに揺れる…ってオイ。
「お前尻尾なんてあったか?」
『ネコには尻尾ついてるさ』
「なかっただろ、絶対。いつついた?」
『カンダの見間違いだろう?』
「お前が俺の手に乗ったときは確実になかったぞ」
『あったよ』
「なかった」
「メアリーアン!!まだですか!!?遅刻すると女王に首を斬られてしまいます!!」
神田とチェシャネコの押し問答は焦ったウサギ…いや、アレンの声で遮られた。女王に首を斬られようと知ったことではない、と神田は目の前のチェシャネコにたいする疑念を優先する。
『お急ぎ、カンダ。それを飲まずに置いていくか、それとも飲むか。決めるのはカンダだよ』
尻尾がついていたかはとりあえず置いといて、妙な好奇心に誘われ、透明なビンを覗き込む。一口だけ飲んでみた。それは意外とおいしくて、そのまま最後の一滴まで飲み干してしまった。
『飲んだかい?』
「なんも起こんねぇ…」
ロッキングチェアーの揺れとともに消えたチェシャネコは神田の目の前に現れた。神田はチェシャネコの笑う口元がなんとなく更に笑っているような気がしていた。チェシャネコの手が神田の右手をつかむ。
『カンダの手の上、好き』
「はぁ?」
神田の手を握るチェシャネコの手が小さくなっていく。そこで神田は気付く…俺、でかくなってる。
「てめぇ!!わかってて飲ませただろ!!」
『外で飲んでもらうべきだったよ。ここは狭い』
段々と大きくなる体。尻餅をついて頭が天井についたところでそれ以上体は大きくならなかった。チェシャネコは潰されないようにか小さな体を神田に近づけた。
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