]-Story

□不思議の国の神田
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「お前さん、誰ですかな?」


答えられない神田にブックマンはもう一度尋ねた。とても難しい質問に思えてならなかった。


「俺は…たぶん神田だ」


「たぶんとはどういことか?ちゃんと説明しなさい」


「うまく説明できない」


頭が痛くなってきた。なぜ、自分を神田だと言えないのか?その理由は簡単だが難しい。この世界にいるからわからない。
アレンはアレンではなく白ウサギ、目の前のブックマンもブックマンではなく、今はイモムシ。じゃあ自分は自分じゃなくて一体誰なんだ。


「俺はなんだ?一日で大きさが色々変わったり意味わかんねぇ」


「そんなことはない」


「お前にはたいしたことじゃねぇかもしれねぇけど、俺には大変なことだ」


「俺だって?俺とは誰だね?」


神田は当然の如く苛立ち始めていた。


「じゃあ、お前は誰だ。言えるのか?」


「なぜかね?」


質問に質問で返される。ブックマンもわずかに怒っているようだった。ここで自分も怒ってしまっては体力と時間の無駄なので立ち去ることにした。
近くでキノコより小さな花を摘んで首飾りを作って遊んでいるチェシャネコを呼んだ。小さな白い花の首飾りをしてチェシャネコは神田に当たり前のように抱きついた。チェシャネコの薫りか花の薫りかわからないが優しい甘い匂いが鼻をくすぐった。


『行くのかい?』


「ああ」


色々と疲れた神田がチェシャネコを引きずるように歩きだすと、後ろから呼び止められた。


「これ、大事な話がある。戻ってきなさい」


「それは俺に言ってんのか?それともこいつか?」


「チェシャネコに話すことはない」


溜め息をついて頭をかく。仕方なく神田はまたキノコの前に立って腕組みをした。水ギセルをもう一度吸ってからブックマンは神田を見た。


「簡単に怒ってしまってはいけないな」


「それだけか?」


「いいや」


ブックマンはキノコの上からひょいっと降りた。神田の目線は上にいたブックマンから下にいるブックマンへと映る。気付けば今度はチェシャネコがキノコに座って足をぶらぶらとさせていた。一人だけ呑気で羨ましい。


「お前さんはさっき大きさが変わって大変だと言ったな。どういう大きさになりたい?」


「あ?もっと大きくだ。今はどうしようもなく小さすぎる」


「いい身長だと思うが…まぁ、いい。一方は大きく、一方は小さくなる」


「一方ってなんの一方だ?」


「もちろんキノコのさ」


それだけ言うとブックマンはどこかに行ってしまった。キノコの上のチェシャネコを見ればいつの間に取ったのか両手にキノコを乗せて神田に差し出していた。巨大なキノコの右側と左側の一部がそれぞれちぎられていた。笑うチェシャネコの水色の瞳を見た。


「これ食えってか」


『好き嫌いはいけないよ』


チェシャネコの手に乗っていたキノコを取って片方をかじってみた。地面が近づいた。もう片方をかじると空が近くなった。少しずつキノコをかじって神田はようやくもとの身長に戻すことができた。ただしチェシャネコが手のひらに乗るくらいに小さくなってしまった。


「お前も食えよ…落ち着かねぇ」


『この大きさで困ってはいないさ』


「はぁ…まぁいい。行くぞ」


チェシャネコは神田の手のひらに乗った。どこか楽しそうで心が和…


「いやいやいや、何考えてんだ俺」


『?』


笑った顔のまま首を傾げてチェシャネコは神田を見た。小さなチェシャネコと目の合った神田は「なんでもねぇ」と視線をそらした。
チェシャネコが何も聞かないのでそのまま森の中を歩く。小さいままだったら何時間かかったかはわからないが数分で開けた場所に出た。そこには家があった。ただし白ウサギの家同様に小さい。チェシャネコは神田に向かって笑いかけた。


『小さいほうが困らないだろう?』


言い返せない。





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