☆短編集☆
□おはようのキスとリップクリーム
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移動中の車の中、護衛の俺はカガリの隣に無言で座りひとりふてくされていた。
正直、大人げないとは思う…が、カガリに関しては上手く自分をコントロールできないのだから仕方ないじゃないか…。
普段から口数は少ないが、一言も話さない俺にさすがのカガリもしびれを切らして、ちらちらこちらを伺いながら話しかけてきた。
「おい、アスラン」
「………」
「アスランってば!」
「…何ですか、代表」
「……;まだ怒ってるのか?」
「…カガリが悪い」
「悪かったよ。逃げたりして…だからもう機嫌なおせよ」
大きなため息とともに紡がれる愛しいひとの愛しい声。
その声音に罪悪感がまったく感じられなくてもつい許してしまいそうになる心を奮い立たせて俺は言った。
「……じゃ、して?」
「え?」
「カガリからキスしてくれたら許してやってもいいぞ」
「なっ…なんでだよ///」
いつも求めるのは俺だから…たまにはカガリからも求められたい。俺は君にとって必要な存在なんだと確かめさせてくれ…。
「い…今は公務中なんだぞっ!そんなことできる訳ないだろっ!」
「移動中だから大丈夫♪」
「大丈夫じゃない…っ///」
「いいから早く♪」
「う〜っ…///やっぱりやだっ!」
「………っ!」
きっぱり、いやだっ!と拒絶され相当なダメージを受けた俺。
頭の中で何かがプッチンとキレた音がしたのは気のせいか?
と同時にタイミング悪く車は今日の訪問先に到着してしまった。
車を降りたカガリは既にオーブ代表の顔になっており、収まりきらない怒りと一抹の淋しさを覚えたが、二度もおあずけされてこちらも我慢の限界なので、周りには気づかれぬようカガリの背後に素早く回ると、カガリにしか聞こえないように艶を持たせた低い声でカガリの耳許に囁いた。
「今夜は覚悟しとけよ、カガリ。俺から二度も逃げた罪は重いぞ?」
「……っ///」
一瞬、肩を振るわせ染まった頬に満足しながら俺はその日の仕事をこなしていった。
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