〜土方日記〜

土方さんが綴っていた日記を読むことが出来ます。

2012/04/01改訂:カラメ閉鎖にともない、直接日記を掲載。



土方日記:説明

俺の日記を読むに当たって、注意事項を伝えておく。
本来なら読ますようなもんじゃねぇんだが…
まぁお前になら特別に、な。

お前の名前は雪村ちづるだ。
ん?そういやお前の名前、漢字で書くとどうなるんだ?
いや、別に平仮名でも構わねぇが。

日記の中の名前が間違ってたら馬鹿みたいじゃねぇか。
書いて寄越せ。良いな?

な、なんだよ!別に…俺はあの流行ってるまじないを真似しようとか言ってるわけじゃ…

……
何だよ、悪いか?
惚れてる相手の名前を守り袋に入れてると、常に寄り添ってる事になるとか何とかって言うから…だな。
俺も、ちょっとやってみようと思っただけだ。

良いから、お前は名前書いて俺に寄越せば良いんだよ!!
俺のも欲しけりゃ書くしよ。

いる、か?そうか。じゃあ後で渡す。
はぁ、しかしこんな昔の日記を開く事になるなんてな…。

ん?お前は特別だと言ったろ?だから、別に嫌ではねぇよ。
だが、一度俺が読み直して…一応、見せられねぇとこは省かせてもらう。

ああ、そうそう。そういやお前は…
今は雪村じゃなくて、土方、だったな?



===================
土方日記1

雪村千鶴について。

屯所内に留め置き、しばし軟禁する事とした。
近藤さんは好意的なようだが、あの状況に居合わせた事、綱道氏の娘だという事などを踏まえると、いまいち信用ならないのが現状だ。
しばらくの間、幹部隊士達で見張る事とする。

新撰組の事を知る者は一握りだ。
なので、この雪村千鶴を監視する者も限られる。
簡単に言えば幹部隊士達だ。
平隊士に細かい説明は出来ない、悪目立ちしなければ良いが…。

ともあれ、しばらくは新選組預かりとする。



===================
土方日記2

雪村千鶴について思う事。

状況はさして好転していないが、何故だかこいつはめげない。
分からない奴だ。
と言うか、まぁ…女だって事が幸いしたのかもな。
平隊士達には万が一の事を考えて男という事で通しているが、俺達の間では女だという事はばれている。
そうそう無碍には出来ないだろう。
特に平助は歳が近い事もあって何くれと気にかけてやってるみたいだ。
原田も女に対して上手く立ち回れる奴だから、任せておけば良いだろう。

男でも女でも、新選組の秘密を知り、危険を孕む可能性を持った奴を野放しには出来ない。
それをあいつらも分かってる。
そして、恐らくは千鶴も。
本当の意味で、俺達があいつに気を許す事が無い事は肌で感じているだろう。
まぁ、その内折れるかな…。

===================
土方日記3

雪村千鶴の茶。

どういう訳か、こいつの茶は美味い。
やはり女のいうのは、普段からこういう事に慣れているのか。
千鶴の作る飯も、正直美味かった。

しかし何時の間にかうろうろしやがって、何て奴だ。
いや、俺のいない間に飯を食うのが一緒になってたり、炊事やらの手伝いさせてたのが悪いんだろう。
たくっ、あいつら…
まぁ、分からなくはねぇけどな。
若い奴らから見りゃ、不憫で可愛い女の子…だもんな。

しかし、こんな男所帯にいるってのに、どうしてああも活発に動けんのか。
そもそもが働き者なのか、じっとしてるよりマシだと思ってるのか…
ちょろちょろ動き回っては、何か手伝えないか聞いている。
部屋でじっとしてりゃあ良いのによ。

気を許さないどころか、あっと言う間にゆるゆるにされやがって。
千鶴は千鶴で、折れるどころか成長しちまった。
どうしたもんかな。


===================
土方日記4

巡察同行の件。

ここまで進展が無いと、少々強引に行くしかない。
何があるとも分からない状況だが…千鶴を巡察に同行させて綱道さん探しをする事とした。

ここまでは良い。
だが、どうにも…おかしな事になっている。
平助は巡察の時に妙に張り切ってるし、総司も何だか機嫌が良い。
斎藤は相変わらず隊務に忠実だが…いつもより帰りが遅い。千鶴に付き合って歩を緩めているのか?
原田は経路確認とか、今までよりも気を配るようになったと思う。
新八はやる気を出しすぎてうるせぇし…
源さんも、普段どおり振舞っているように見えて表情が柔らかい。
別に支障があるわけじゃ無えから良いんだが、釈然としない。

組を率いる組長の立場からすれば、あいつは足手まといだ。
いつもよりも気を配る必要が出てくる。喜ばしい事とは思えない。
だが、皆、何でか嫌な顔もせず…それどころか、あいつを守ってやろう、助けてやろうと言う気概の方が見える。

影響が、出てきたな。
あいつがいる事で変わるこの新選組に、俺は不思議な思いを抱いている。
だからと言って、根本が変わる訳ではない。
新選組は新選組だ。


===================
土方日記5

わざとじゃない。

あいつも女だ、あんまり迂闊な事するもんじゃねぇな。
ぐらぐらした踏み台に乗って上にある物を取ろうとしてっから、思わず支えに手を伸ばしちまったが…
細っこい腰にやわい体。
いや、決してわざとじゃねぇ。たまたま当たっただけだ。
あんな小ぶりなもん、乳とも言わねぇ…
だが、悪い事したなとは思っている。

結局、上にあるもん全部おっことして拾う羽目になったしな。
これからは、一声かけてから支える事にするか。


===================
土方日記6

心配だ。

千鶴に女物の着物を着せたら…
驚くほど美人だった。
まぁ、可愛い顔立ちしてんのは分かってたが、ああも変わると驚く。
白い肌に赤い紅が際立って…
だが、島原の女たちとは違って初々しく、伏目がちになっていた。

あんな姿で潜入なんて、大丈夫か?取って食われるんじゃねえかな。

山崎や斎藤も待機してるし、大事はないだろう。
そういや、あの君菊って女も付いてるんだった。
なら、尚更大丈夫だろう。
大丈夫だろうと…思う。
たくっ、男になったり女になったり。どっちになってても危なっかしいよな、あいつは。


===================
土方日記7

なんてこった!

まったく、何で俺が駆け落ちするんだよ!くそっ。
言いたい放題言いやがって…。
あいつは芸者じゃねえし、俺が落籍させた訳でもねえ!!
ああ、くそっ…大立ち回りしちまったからなぁ。
あんな胸糞悪い事言われたら仕方ねぇが、あいつには悪い事しちまったな。
まだ嫁入り前だってのに、男と駆け落ちだなんだって。
変に気にしてなきゃ良いんだが…。

それにしても、馬鹿達がうるさくていけねえ。
俺とあいつの噂を聞きつけて、やれ役得だ、抜け駆けだと。
何言ってやがんだか。
あいつも俺も、隊務の一環で動いてたんだ。
そんな艶めいた事あってたまるかよ。
まぁ、騒ぐ気持ちも分かるけどな。
豪奢な着物に包まれたあいつは確かに別嬪だった。
そんな女を奪ったとなりゃ、男としての株は上がるだろう。

それに、抱き寄せた時のあの甘い香り…、驚いたようにしがみ付いてきた小さな手。
あいつを守りたいって思うのは、男としての本能なのかもな。
まぁ保護欲ってだけで、別に女として見てる訳じゃねぇけどさ。



===================
土方日記8

小せぇ足…

そう思った。
ついでに言えば…。まぁ馬鹿みたいな事だが…えらく生々しい。
あの真っ白い足を見せられて、驚かない奴もいない気がするが…
いや、だが本人に言うのもな…、どうしたもんか。
俺がこんなに悩む必要があるのか、正直分からない。
だが、やはり一言言っておくべきだろう。

別に袴を脱いでた訳でもねぇし、だらしなくしてた訳でもねえ。
ただ、歩きすぎて痛めたらしい足を冷やしてただけだ。
しかし、少なくとも男どもの視線を一瞬留め置くには足る光景ではあった。

袴を少したくし上げて、白い足を盥の水につけて…
あの後、多分軟膏でも塗るんだろうが、出来れば部屋で塗ってくれ…と切に思ったぜ。
何で俺がこんな事にまで気を回してるんだ、くそっ。
はぁぁ…
山崎が近くにいて良かったと心底思う。
さすが監察方で医療を担う者だ。
気も付くし、目配りもうまい。

……
しかしまぁ、真面目だが、あいつも男…だもんな。
千鶴に対して、目を逸らしながら“手当てをするなら部屋で”って助言してるあたり。
あいつも動揺した口か。
たくっ…もうちょっと気にしろってんだ。
まだガキだが、お前は女なんだからな。


===================
土方日記9

背中が温い。

たくっ、新八の馬鹿野郎が…千鶴に酒なんて飲ませやがって!
酔って勢いに乗るとどうしようもねえな、あいつは。
まさかあんなに強い酒だなんて誰が思うかよ。
一杯位なら平気か、何て思ってた俺が甘かった。
今度の非番、返上させるか…まったく。

しかし、背中が妙に温かった。
まぁ酔った人間背負ってりゃ温くもなるか。

…安心したように寝息立てやがって。
鬼副長におぶわれるなんて、普通ねえことなんだからな!
あいつらにゃ任せられねぇし、俺もそろそろ屯所に戻ろうって時だったから連れてきただけだ。

無意識なのか、千鶴の腕は俺にしっかり巻きついてきた。
離さない、とでも言いたげに。
夢でも見ているのか、時々むにゃむにゃ呟いては小さく笑う。
子供の頃にでも戻っていたのか…。もしかしたら、父親に背負ってもらってる時を思い出してるのかもしれない。

そんな風に思うと、こいつもきっと寂しいんだろうな…という、しんみりした気持ちが俺を襲った。
可愛そうとまでは思わないが、身内の安否がわからねぇってのは不安なものだ。
早く、見つけてやれりゃあ良いんだが…。

余談だが、千鶴は意外に酒癖が悪い。
と言うか…こいつのこの癖は誰にも言わない方が良いだろう。
やっと荷物を下ろせると思って、あいつを背から下ろした後だ。
ベソかきながらしがみついてきやがった。
ぎょっとして思わず抱きかかえて俺の部屋まで運んだが…

一度しがみ付くと、中々離さねぇんだよな。
抱きついたまま、離そうとするとむずがって嫌がる。
まるで子供みたいに泣きそうになるもんだから、さすがの俺も弱った。
なんつぅ酒癖だ。
しがみ付かせとくと安心して寝るんだが…

どっか異国にいる動物で確かこういうのいたな。なんつったかな…
こいつ、元はそいつなんじゃねえか?
次、こいつに酒呑ませた奴は切腹だな。


===================
土方日記10

一応、新八も考えてたんだな。
千鶴に酒呑ませた事を説教したら、あいつはこんな事を言った。
“ここんとこ、なぁんか寝れねぇみたいだから、強い酒で一発ころりと思ってよ”
気遣いまでは良い。
良いんだが、方法が悪い。
たくよ。あいつもあいつなりに色々千鶴の事を考えてたって事か。
止めなかった原田や平助からしても、きっと新八のこの案を知ってたんだろうな。

ちっ。
なら、せっかくの宴であんなに声を荒げるんじゃなかったぜ。
そういう事は俺に一言言っとけってんだ。
気付いてやれなかった俺は、まだまだって事、か。


===================
土方日記11

近藤さんはお人よしが過ぎる。
それに、真っ直ぐすぎる…
あの人に影を背負わせる気は無い、それは俺が負う物だ。
だから話せねえんだよなぁ。
“何か悩みがあるなら話してくれ”
か。

お人よしで人を疑わず、結構鈍いくせに…
大事なときに鋭い。まったく、困ったお人さ。
ま、だからあんたと一緒にいるんだけどな。

しかし…時代が動いてる。どうなっていくんだかな。
俺は俺のやるべき事をやるだけだけどな。


===================
土方日記12

前々から思ってたが伊東はいけ好かない。
どんなに優秀で、どんなに腕が立ち、どんな働きをしようと、俺は絶対あいつとは合わない。
くそっ。
馴れ馴れしくすんなよな。

それにしても…千鶴の事、あいつは気付いてる…のか?
時々話しているようだが…。
可能性は高い。まぁしらを切り通すが…気をつけるよう、あいつにも言っておくべきか。
いや、逆に意識して妙な行動されても困る。千鶴には余計な事を言わない方が良いか。
警戒するように斎藤、山崎あたりに頼んでおこう。
後は総司か。あいつも、その事に気付いてるみたいだし…な。


===================
〜土方日記〜束の間の時〜

「飽きねぇか?まぁお前が読みたいなら別に良いんだが」
その声に顔を上げた千鶴を苦笑いで見つめながら、土方が隣に腰を下ろす。
「人ってのは不思議だな。過ぎ去った日々をこうして記録して…後から見返して懐かしむ」
千鶴は小さく頷きながら、何か思うように少し首を傾げる。
そして、
“人は、大事な事をいつまでも大事にするからじゃないですか?”
と言った。
が、土方はそれに意見する。

「そうかぁ?大事な事は忘れねぇよ。大体、それに書いてある事は軍事記録とかとは違って俺にとっちゃ…」
そこまで言って思わず口ごもった彼に、千鶴はどうかしたんですか?と、気付かぬままに追い討ちをかける。
「だから、ちょっとした愚痴の捌け口だったっつうか…大事な思い出綴ってる訳じゃねぇって言うか。書いてると考えもまとまるし」
恥ずかしそうに、口をへの字にしながらそう言うと、腕を組んで目を逸らしてしまう。
「だから、大体私情でしか書いてないだろ?文章でもねぇし」
こくりと頷く千鶴に、土方はふっと笑って片眉を上げる。
「それをお前に見せてるってんだから、俺もどうかしてる」
言うと、何だか嬉しそうに千鶴に寄っていき、日記を閉じさせて膝上に引き上げた。
「今日はその辺にしとけ。それよりお前はどうなんだ?あの頃、ほんとは逃げ出す算段くらいしてたんだろ?」
悪戯っぽく聞く彼は、彼女の頭を撫でながら瞳を輝かせている。
もし、本当に実行していたら、鬼副長の本領が発揮されていたであろう。
言って良いものか…千鶴が口ごもっていると、
「じゃあ、俺の事いつから好きになった?」
くすっと笑って話題を変えてくる。

まるで子をあやすかのように、彼女を抱き締め、優しく揺すりながらそんなことを聞かれ…
耳元で響く甘くて優しい声は、彼女の頬を染めるには充分な威力だ。
“知りません!!”
と、そっぽを向く彼女に笑いながら、
「吐かねぇと離さねぇが?」
と言ってそのわき腹をくすぐり始める。
千鶴の悲鳴が上がった。
「おら、観念しろ!」
楽しげに攻撃してくる彼に降参するのは…時間の問題?


===================
土方日記13

ここのところ、千鶴の様子がおかしい。
妙にそわそわして、辺りを気にしている気がする。
何か隠し事でもしてんのか?と思って密かに様子を見ていると…
いつか、屯所を荒らした猫と向かい合って何やらしている。
まさか飼いならしてたのか?と近づいて行くと、困った顔で猫を追いやっている所だった。
“ごめんね”
どこか名残惜しそうな千鶴の声が、猫には分かるのだろう。
逆に懐かれて難儀しているみたいだ。

あんまり困った顔してるもんだから、声をかけると、猫はあっと言う間に逃げて行った。
俺にびびったのか、驚いた千鶴の反応に驚いたのか…。
後に残された俺と千鶴の立場もお構い無しに一目散だ。
たくっ、何て奴だ。
俺を窺うあいつの目が、何だか幼く見えて…
叱られるのを待つ子供、とでも言えば良いのか。
そんな顔されて怒れるかってんだ。くそっ。


===================
土方日記14

子猫、か。
千鶴を見てたらふいにそう思った。
好奇心が強く、けれど警戒心はある。
愛らしくてつい手を伸ばしたくなるが、本当は飼いならしてはいけない。
懐かれると、最後まで面倒みる事になるからだ。
なるべくと、そうならないようにしてきたつもりだったが…
いつのまにか、愛着が湧いてたらしい。

くるくると良く働くあいつに、つい色々頼む。
茶を持ってくるあいつを部屋に入れてる。
何か出来る事はないかと聞いてくると、何か指示を与えている。
ああ、たくっ。

今度は猫じゃらしでじゃらしてみるか。
何であんなに嬉しそうにじゃれつくのか知らねえが、それを見て、人は猫を可愛いって思うんだろうな。
一生懸命な千鶴の姿を見て、可愛いと思うように…。
あ〜あ、ほだされたもんだな、俺も。


===================
土方日記15

風呂には毎度難儀している。
あいつを屯所の風呂に入れるのはどうかと思うが…
やむを得ない時もある。
が、やはり色々あるだろうと、連れ立って出かけることにした。

しかし、微妙な空気になった。
風呂でも入って来いと言ったまでは良い。
千鶴も嬉しそうだったが…
場所が場所だけに、気まずくなってしまった。
別に変な意味合いで連れてきたわけじゃねえんだが、まったく、困った話だ。
千鶴と話し合いの結果、可能な限り、千姫かあの君菊って女を尋ねる事にした。
その方が、あいつも安心だろう。

やれやれ。


===================
土方日記16

やれやれと言えば…
あいつは元気だ。そして、意外と世話焼きだ。
更に言えば働き者だ…。
天気が良いからって布団を干すのは構わねぇが、何もあんなにいっぺんにやるこた無いだろうに。
面白がって総司の奴が、その上に寝てたっけな。
そのまま寝かせておくあたり、あいつも総司の扱いに慣れてきたのか?

本願寺は広いし、干すところも多いから別に良いんだが…何だかな。
ま、そういう事に気を使う奴なんて千鶴くらいだから良いか。
いや、良くねぇか。
自分の事くらい自分でさせねえと、あいつに甘える奴が増えるからな。
たく、人の布団なんてほっときゃ良いのによ。
俺も、人の事言えない、か。


===================
土方日記17

猫改め…
前にあいつを猫だと思ったが、実はどうして違うかもしれない。
小さくて白くて可愛いって見た目なら、兎かもしれねぇが…
案外あいつは猪な気がする。
猪突猛進っつうか何て言うか。
まぁ思慮はあるんだが、時々なんでか暴走する。
おかしな奴だ。
頑張りすぎるんだろうな、きっと。

それで熱出してりゃ世話ねぇや。
たくっ…
千鶴が元気な姿を見せねぇと、他の連中まで静かになって敵わねぇ。


===================
土方日記18

変わり行く時代の流れに逆らえないのは、新選組だけじゃないはずだ。
なのに、確実に俺達の居場所が消えていく…。
何でだ、どうしてだ。
今まで歯ぁ食いしばって築き上げてきたもんが…
何かのきっかけで一瞬にして崩れていきそうでもどかしい、苦しい。
ちくしょう、一度は俺達が手に入れた物を…今度は薩長が持って行く。
じたばたしても始まらねぇとは良く言うが…
こう言うときこそじたばたしねぇと、本当に持っていかれる。
負けてたまるか。
まだ、まだ終わりじゃ無い。


===================
土方日記19

ほっとした。
なんでかな…お前が微笑んでるのを見ると落ち着く。
負けてられねぇと思うからか、お前が笑ってられる場所を保ちたいのか…。
どっちもだろうな。
ぐだぐだ悩んでる場合じゃねぇ。
俺は俺のやるべき事をやらなきゃならねぇ。
お前が心配してくれるはありがたい。
そういう奴がいると、心配させないように頑張ろうって何故だか思うもんだ。
不安を仕舞いこんで、ただ支えるってのは結構大変だよな。
でも、笑ってろ。
お前が笑ってると…


===================
土方日記〜この続き〜

「ん?どうかしたか」
千鶴がめくる日記を覗き込んだ土方が、指し示された場所に気付いて笑う。
「ああ、書きかけ…だな」
何かを思い出すように目を細めながら…そっと日記の先をなぞる。
「書けなかったんだよ。残しておくのは…まずいと思ったんでな」
彼の言葉を黙って聞いている彼女に、土方もただ淡々と語る。
あの時を振り返ると、波立つ感情を抑えなければならない。
自然、土方は表情も声色も平坦になるのだった。それに気付いているは、きっと千鶴だけ。
「お前への思いが明白だったわけじゃない。だからこそ、何かの言葉を、明確に残しちゃならねぇと思ったんだろうな」
苦笑の入り混じったようなため息を吐いて、彼は彼女の手から日記を取り上げて閉じる。
「この日記はこれで終いだ。満足したか?」
こくりと頷き、ありがとうございますと礼を言う彼女を…
土方は優しく見つめる。
「過去を振り返るのも終わった事だし、な。お前との記録でも残しとくか」
一段明るくなった彼の声に彼女が笑うと、土方も笑う。
「日記の続きは、お前が赤面するほどの愛で溢れちまうかもなぁ」
目を大きく見開いた千鶴に、彼は満足そうに、悪戯そうに口の端を上げる。
「いつか誰かが見つけた時に…俺達が惚れあってたって事が嫌ってほど分かるくらい甘ったるい日記にするのも悪く無い」
そんなの誰にも見せられないですよ!っと騒ぐ千鶴に、彼はただ笑う。
「ほんとの事だから、仕方ねぇだろ?」

これからの彼の日記に綴られるのは…甘い甘い幸せの記憶。


=終=

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ