短編

□狐の嫁入り
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『元就様、いくら日輪が拝めないからってそんな仏頂面しないでくださいよ。はっきりいって怖いです。普段から怖い顔なのにそんなに眉間に皺を寄せたら恐怖倍増です。』



「……お前は俺を不機嫌にさせたいのか?」



滅相も御座いませんよーとヘラヘラ笑うこの女はつい先日、我の世話係兼忍になった駒だ。我の気をここまで逆撫でれるのは小奴くらいであろう。



『いやー、私も雨は好きじゃありませんよ?でも雨が降らないことには畑の作物も稔りませんし米もできませんし。』



「ふん、それくらいわかっておる。我を誰だと思うとる。」



『あ、元就様!蝸牛(かたつむり)ですよ。』



「………」



こいつに耳はないのか?と疑いたくなるほどこの女は人の話を聞かない。しかし、不思議なことにこいつと話すのは嫌いではない。



『あ、蛙もいる。そういえば元就様の格好は雨蛙に似てますよね。ププッ』



「そんなに死にたいのか貴様は…!!!」



前言撤回やはり嫌いだ。
そんなことを考えているといつになく真面目な顔をして忍は我を見ていた。



『死にたくないですよ。だって死んだら元就様と話せなくなるし何より、元就様を御守り出来なくなります。』



だから、死にたくありませんと言う忍の目はまだ我の顔を捉えていた。こんな忍は初めてみる。なんと答えていいかわからない。



『あっ!元就様!みてください!』



沈黙を破ったのはいつも通りの底抜けに明るい忍の声だった。その声につられて忍が指差す先をみる。いつから我はこんな風に他人の調子に合わせるようになってしまったのだ。



『今日は狐の嫁入り日なんですね。』



「…そうだな。」



さっきまで空を覆っていた分厚い雲は散り日輪の光が大地を照らしていた。しかし、先程と同じく雨は降り続けている。我と忍の目には鮮やかな七色の虹が映った。




『狐〜!幸せになりなよー!』



虹にむかって嫁入りした狐を祝う忍はどこか羨ましそうな目だった。



「忍、お前も嫁入りしたいのか?」



『えぇっ!?そんなわけないですよ!嫁になったら忍として働けないじゃないですか!』



「ならば我の嫁になればよかろう。」



『………へ?』



我は何を口走っているのだろうか。



「お前は我の世話係、忍、そして嫁の一人三役をこなせばいい話だ。」



『本気でいってるんですか!?なんか変なものでも食べましたか!?』



忍の言うとおりだ。我はいったいどうしたのだ。そうだ、きっと狐に化かされたのだ。そうに違いない。



「どうしたいかはお前次第だ。」




いつの間にか雨は止んで虹も消えかかっている。



『ふ、』



「ふ?」



『不束者ですがよろしくお願いします…』



「ふん、よかろう。」



この女から初めて会話の主導権を奪えたことと嫁入りを決意した返事に今までにない優越感を得たのはいうまでもない。













名前変換機能ってなんだろうね(殴
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