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□清秋
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あの日、一度だけ、そういう気持ちで兄のことを抱き
しめた。
あなたが欲しいんだ。
兄としてのあなたも、そうでないあなたも、全部欲しいという思いを隠さずに、腕をまわして力を込めて。
そうして感じた兄の身体は、思っていたより小さくて、熱かった。
シャツ越しに伝わるお互いの体温が溶け合う感じに身体の奥が震える。ぼくはこのまま、一生兄の身体を離せないんじゃないかと思ったのに。
すると兄は、ぼくの腕の中でつぶやいた。
「ここからが本当の始まりだ。ちゃんと、まっとうに、幸せになろうな、オレたち。」
金色の視界から顔を上げて空を見上げる。
抜けるように晴れ渡る青い空。秋の澄んだ空気と、雲ひとつ無い空。
…すがりようのない、清々しさ。
ぼくは腕を離すしかなかった。
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