‡Other‡

□秋のぬくもり
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「秋のぬくもり」

秋という季節は、冬ほどでないにしても、寒い。特に今年は、例年に比べて、もっと寒く感じる。もしかしたら、自分は冷え性なのかもしれない。と、用具委員の仕事を片づけながら考えていた。さっきも、作業中に後輩たちから「食満先輩のお手々、冷たいですねぇ〜」 「一緒に薪で暖まりませんか?」と言われ、作業を中断し、共に薪で手を暖めて来たばかりなのだ。その内手も体も暖まって来たので、さぁ仕事だ!と、後輩たちに礼を言った後、たきぎの側を離れ作業場に戻った。その内、作業の続きをしてまだ大した時間も経たない内に、自分の体はまたもとの冷たさに戻ってしまうほどの寒さだった。

「…寒っ…」

俺は自分の冷えた手で、また冷えた体をさすった。
作業の終えた俺は、用具倉庫室に来て、用具の点検をしていた。
さっきみたいに、また勝手に掘られてた蛸壺を埋めるという、体を動かす作業をしていれば少しは暖かくなるものの、ただ用具が有るか無いかの点検だけでは、体が温まるどころか、より一層冷えるばかりだった。

「…それに倉庫室って寒いんだよなぁ…。ひんやりしててさ…。」

と、また用具の点検をしながら、やけに響く独り言を言うと、

「まぁ、少しはな。」
「!!」

いきなり、背を向けてた入り口方面から、声が聞こえてきた。まさか、独り言に返事が返ってくると思わなかった俺は、驚きで体がビクッと跳ねた。

「少し学園の建物からも離れてるしな」
「気配消して近づくんじゃねぇよ!!」

入り口には、俺の喧嘩相手であり、そして、……いちおー、恋人である……文次郎がいた。
好敵手でもあるこいつに、驚いた姿を見せた自分自身に恥ずかしさよりも先に腹が立ち、同時に、まるで驚かすために気配を消してきたようなこいつに、それ以上の腹立だしさを感じて、俺は思いっきり怒鳴った。文次郎は、それを聞くと、少しバカにしたような呆れた顔をして言った。

「気づかんのが悪いだろ。鍛錬が足りん!」
「うるせーよ!別に気配消して来なくたっていいじゃねぇか!! この鍛錬馬鹿!」
「なんだと!?お前こそ、全然感づきもしないとは、忍者失格だな!!」
「んだと!?」
「やんのか!!?」

頭にきた俺達は、互いに胸ぐらをつかみ合う。そしてそのまま…

「「やらいでかぁっ!!!」」

カーンッ!と、頭の中で試合開始のゴングが鳴った。

文次郎の右手拳が、俺の左頬に向かってくる。俺は掴んでた胸ぐらを離しながら、身を引いてそれを避ける。左頬に奴の拳がかすった感覚を感じながら、今度は自分が左足を、奴のわき腹に狙いをつけて蹴り上げる。

「…くっ…!」
「……っ!?」

俺の放った左足は、見事に奴のわき腹に入ったが、今度は文次郎がその足をがしりと掴んできた。ニヤリと、してやったりという顔に、この野郎!という気持ちを、今度は右手に込め、奴の顔面めがけて力一杯殴りかかった。パシイッ…という、乾いた音が鳴り響く。俺の放った攻撃は、また相手に何の痛手も与えられず、取り押さえられる。

「…ちっ!」
「……」

これじゃ、お互い動けぬ状態のままだ。取り押さえられたことに悔しさを感じ、俺は視線を右手から文次郎に睨むように移した。

「……?」

…文次郎は、掴んだ俺の右手を凝視していた。しかも、先ほどまでのあの、頭にくるニヤリとした表情はなく、何故か少し驚いたような顔をしていた。俺はその様子に不意をつかれ、睨むこともやめて文次郎に問いかけた。

「…おい、文次郎?…どうした?」
「……」

あいつは黙ったまま、掴んでいた左足をゆっくりと降ろし、そして今度は、まだ掴んでいる俺の右手を両手でゆっくりと包み込んだ。

「……っ!?? えっ!? なっ! 何っ!!」
「…お前…」

今まで黙ったままだった文次郎が、びっくりした俺に、静かに口を開いてつぶやいた。

「…冷たいな…」

寒いのか…?と、また続けて呟く。
…そんなに驚くことなのだろうか。
……でも…、……あったけぇな………。
右手に文次郎の体温を感じて、それが嬉しいと思ったことに恥ずかしさを感じ、顔に熱が集まる。俺はそのことを誤魔化すために、文次郎に向かって怒鳴った。

「…っていうか、いきなり喧嘩の途中で何しやがる! 離せよ!!」
「や、やかましい!!それより質問に答えろ。…寒いのか?」

少し真剣な顔で問われ、手を引くのをためらった。その少し真剣そうな目に、また少し恥ずかしさを感じ、俺は目を背けた。

「…別に、寒くない。」
「嘘付け。こんなに冷えてんじゃねえか。」

と言いながら、文次郎は俺のもう一方の手も取って、また包み込んだ。


「う、嘘じゃねーよ!!」
「…ったく。少しぐらい素直になれ! バカタレが!!」
「だから! 本当のことだってさっきっから言ってんだろーが!! お、お前に…っ!!」

と、そこまで言って、ハッと我に返った。何を口走ろうとしてんだ俺は!
おそらく今の俺の顔は、羞恥で真っ赤になってるだろう。

「お前に…なんだ?」
「うるせー! もう離せ!!」
「最後までちゃんと言ってねぇだろ!!逃げんのか!!」

カチーンッ!
こいつの最後の一言を聞いて、とうとう本気で頭にきた。羞恥もプライドも、自分の中にあるいろいろなモノをかなぐり捨てて、俺は文次郎に向かって叫んだ。

「お前にこんな風に手ぇ握られて、寒いわけがあるか!! むしろ逆に恥ずかしさとかで、すっごく体暖まってんだよこの馬鹿!! これでいいだろ、馬鹿文次郎が!! 早く手ぇ離しやがれ!!」

思ったこと、考えたことを、目の前の馬鹿に向かってほとんど言ってやった。…でも、その思ったことの中でも、言って無い事が一つだけ…。だが、これだけは絶対に言ってやるものか。正直女々しすぎて、言ったが最後、恥ずかしくて死んでしまいそうだ。

「……」
「……」

俺の言葉を聞いた文次郎は、だんだんと顔が赤くなっていった。
え? なんでだ? なんだその反応は?
正直馬鹿にされると思ってた俺は、その赤くなった顔を見て拍子抜けする。
お互いに真っ赤になりながら、ポカーンと突っ立ってた。

「…〜〜っ! あーくそっ!!」
「わっ! も、文次郎!?」

先に動いたのは文次郎だった。
いきなり、掴んでた俺の手を自分の方に力一杯引き、同時に手も離された。バランスの崩した俺を、文次郎は両腕でしっかりと抱きしめた。

「いきなりびっくりするだろが!! お前は脅かし屋か!?」
「やかましい! おまえが悪い!! むしろ、脅かし屋はお前の方だろ!!!」
「はあっ!!? ふざけんな!! さっきっからいきなり声かけたり、手ぇ握ったり、抱きしめたりしやがって!!!」
「お前こそ!! 声かければ驚くし、手ぇ握れば赤くなるし、しかも、寒いか聞けば、てっきり喧嘩して体暖まった、とか可愛くない事言ってくると思いきや、あんなこと言いやがるし。いちいち可愛いんだよ!! バカタレが!!!!」
「……なっ…!…か、可愛いって何だよ!! お前頭大丈夫か!? 一辺伊作にでも観てもらえ!!」
「あー! やっぱ全然可愛くねぇ!! もう黙っとれ!!」

そう言うと、ぎゅーっと俺を抱きしめた。こいつの肩辺りに顔を押さえられ、息苦しいったら無い。

「文次郎! 離せっ!!」
「薪で温めても、すぐ冷えるくせに、何言ってんだ」
「っ!?何で知ってんだよ!!?」
「後輩から、お前の居場所とともに聞いたんだ。ったく、どんだけ寒がりなんだ。しばらくこうしてりゃ、恥ずかしくて暖かくなんだろ? なら、このままでいいだろ」
「……うるさい、」
「…、…はいはい」

…あー…でも…、

「……本当は、な…」
「ん…?」

言ってやってもいいかな…。

「……恥ずかしいだけじゃ、ねーんだ……、」

暖かくされた礼に、

「……さっき手ぇ暖めてくれたとき……」

さっき言ってなかった…否、言えなかったことを…。

「……何か、体だけじゃなくて、……」

本当は死ぬほど恥ずかしいけど、

「……心が、すっげー温かかった……」

しかたねぇから、言ってやるよ

「……薪なんか、じゃ、感じない暖かさだった…」

…あぁ、

「お前って、薪より温かいんだ、な……」
「……。」

本当は今も、とても心が温かい…
恥ずかしくて、とてもじゃないが言えないけれど…。
嬉しくて嬉しくて、

「……留三郎…」
「……なんだ?」

文次郎が、俺のまたさらに真っ赤になった顔を覗き込む。

「前言撤回ってのは、こういう時に使うんだな。」
「…も」

文次郎。と、俺が名前を呼ぶ声は、そいつ自身によって塞がれた。

ちゅっ…と唇同士が離れる音がする。

「…俺もだ」
「……?」
「俺もお前と居ると、心がすごく温かく感じる…」
「……」

抱き合い、見つめ合いながら、今度はどちらからともなく唇を合わせる。

「温かいな…」
「…あぁ。…温かい…」

それが示すのは、体のあたたかさか、それとも心のあたたかさか。
…それは俺たちだけの、秘密だ。

用具室の外では、秋風が寒そうに木々をざわざわと揺らしながら、盛大に吹いていた。


end


†あとがき†
終わた\(^p^)/
なんというgdgd(泣)
なんというお留化(泣)
なんという赤面の多さ(泣)

次がんばります(爆)!!!

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