お題用

□「さびしい」なんて言えなくて。
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「なぁ」
「なに?」
 朔夜がキッチンで怪しげな音を立てながらお茶とお茶菓子の用意をしている間、有也は居間の隅で吉良に声を掛けた。
「何でアンタが此処に居るんだ?」
「雨だから、かな?」
「は?」
「外出の予定が無くなったら朔夜さんに声を掛けられたからお茶をしていただけだよ」
 吉良が言うと有也は怒りにわなわなと震えた。
「てめぇ……彼女居るんだろ?」
「いるよ。可愛い雛が」
「だったら人の女に手ぇ出すんじゃねぇ!」
「手は出してないよ。朔夜さんとは所謂「ご近所付き合い」ってやつだよ。暇なときに話を聞いてもらったりとか破れたシャツを直してもらったりはご近所付き合いの範囲じゃない?」
「範囲じゃない!」
 有也は吉良を睨む。
「ゆーくん、何騒いでるの? はい、お茶」
「サンキュ、ってその「ゆーくん」ってのいい加減止めろよ」
「いいじゃない。可愛くて。目つきと口が悪いんだから呼び方くらい可愛くしなきゃ」
 朔夜はくすくすと笑いながら言う。
「うるせぇ。って、珍しく炭化物じゃねぇモンがある……」
「スコーンを焼いてみたの。ジャムも用意したわ」
「……ホントに朔夜が作ったのか?」
「まぁ! 失礼しちゃうわ」
 わざと拗ねたように言う朔夜に有也は笑う。
「僕も貰っていいかな?」
「どうぞ」
 お茶を飲み始めた有也の後ろに回り、朔夜は再びタオルで頭を拭き始める。
「ちゃんと拭かなきゃ風邪引くでしょ?」
「そんときゃ朔夜が看病してくれるんだろ?」
「そう? 毎日卵かけご飯になるわよ?」
「……お前、もう料理諦めてるだろ?」
「ええ、諦めたわ」
 朔夜の言葉に、有也は溜息を吐き、その様子を見て吉良が笑った。
「お粥くらい作れるんじゃない?」
「炭味の?」
「朔夜、自分で言って虚しくないか?」
「……吹っ切れました」
 そういう朔夜に有也は溜息を吐いた。
「茶菓子は普通に食えるんだけどな」
「あら、ありがとう」
 朔夜は慌しくタオルを片付け始める。
「あれ? もう終わり」
「ドライヤーを持ってきますから大人しく、くれぐれも大人しくしていてください」
 釘を刺す様に言って朔夜は奥に消える。

「僕はそろそろ失礼しようかな」
 吉良は立ち上がる。
「おー、さっさと消えろ」
「ほんっと、君って失礼だよね」
「うるせぇ」
 有也は忌々しそうに吉良を見た。
「あら、吉良さんお帰りになるの?」
「うん。なんか邪魔みたいだから」
「まぁ……」
 朔夜が笑うと、吉良は朔夜の耳元で囁いた。
「たまには甘えてみたら?」
 その言葉に朔夜は一瞬固まる。
「じゃあ、またね」
 涼しい顔をして出て行く吉良を見て、一瞬恨めしい気がした。
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