小品集

□夢現
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 夢を見た。
 ガラス越しの夢。
 ガラスの向こうで男の人がいろんなコードにつながれて、とても苦しそうに叫んでいる。
 あれはきっと悲鳴なのだろうけど、私の元には全く音が届かない。
 
 そう、私達の間にあるのは分厚いガラスの壁。
 だけども私からあの人の様子ははっきりと見えるし、あの人からも私がはっきり見えるのだろう。時々すがるような目で私を見ている。
 きっとあの目は「助けてくれ」とか「苦しい」とかそう言ったことを言っているのだと思った。
 だからと言って私に出来ることなど何も無い。
 はじめは興味深く見ていたけれど、次第にそれは苦痛に変わった。
 だって、ガラス越しのあの人はいつも苦しそうに悲鳴をあげているのに、このガラスの壁は全く壊れてくれない。

 助けたい。

 そう願ってもそれが出来ないのだ。
 振動を遮断するかのようなガラスの壁。
 それは音さえも消してしまう。
 きっとこのガラスは何重にも層を織り成しているのだ。

 ガラス越しの彼は、今日もすがるように私を見ている。

「無理よ。何も届かないの。この壁は壊れないわ」

 そう、はっきりと、ゆっくりと告げても彼は私を見ている。
 彼も何かを言ったのかもしれないけれど、彼の口に入った巨大なパイプのお陰で彼が何を言ったのか全く検討もつかなかった。

 電気コードとパイプ、それに何やらチューブ。
 まるで手術室みたい。そう思ってやっと気がつく。
 きっと彼は手術を受けているんだ。
 だけども何故か彼の意識ははっきりとしている。
 きっとその生で彼は苦しんでいるのだ。

 だけども、私には彼がどこの誰かだなんて解らない。
 何故彼が私を見ているの全く理解できなかった。
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