小品集

□貴女の涙に恋をする
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 夢の中のあの少女はいつも泣いていた。
 あの少女は私を見て涙を流してくれた唯一の人だった。




「見て見て、フランシス!」
「どうなさいましたか?」
「苺がいっぱい生ったの!」

 アリエルは元気よくフランシスの方に駆け寄った。
 勢いが止まらず体当たりを受けたフランシスはよろけたが、アリエルにだけは怪我をさせたくない一心でなんとか踏みとどまることが出来た。
「少し落ち着きましょう」
「はぁい。でも、ほら、真っ赤な苺」
 嬉しそうに笑う少女にフランシスも自分の頬が緩んでいることに気がつく。
 機械であるはずの自分にこのようなことが出来たことに少しばかり驚いた。
「ねぇ、ファニー、これだけあればジャムも作れるよね?」
 アリエルはフランシスをファニーと呼んだ。愛称ならフランキーでもフランクでもフランでもシスでも色々あるのに彼女はその中からファニーを選んだのだ。
「ええ、ジャムにしますか?」
「うん。あとね、裏のトマトも結構大きくなったんだよ」
「それはどのように?」
「ボロネーゼを作らない? 寝起きの兄さんの顔にぶつけるの」
「怒られますよ?」
「狙ってるに決まってるじゃない!」
 アリエルが思いっきりフランシスの肩を叩いたので、今度こそ彼は倒れた。
「……手加減してください」
「あ、ごめん。どうも、満月が近づくと上手くコントロール出来なくて……」
 しゅんとした表情のアリエルにフランシスは笑う。
「平気ですよ。身体だけは丈夫ですから」
「ホント? ねぇ、ファニー、今度分解させて?」
「え?」
「一体どういう仕組みなのか気になるのよね。血は美味しいけど人間でもモンスターでもないんでしょ? 私とおんなじハーフなの? それとも……」
「お言葉ですが、人間と機械のハーフは存在しないかと」
「あー、そう言われればそうね」
 アリエルは考え込む。
 その隙にフランシスは籠と鋏を用意しに屋敷へ戻った。
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