お題用
□夜毎思い出す敵の顔。
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同業者が聞けば間違いなく腹を抱えて笑った後に、オレを敵とみなすだろうと自覚はある。
しかし、一度芽生えてしまった感情というのは打ち消すことは困難だ。
ハラルド・ヴァン・ヘルシングは丹念に武器を手入れしながら考える。
近頃はあの少女の顔ばかりが思い浮かぶ。
彼女に個人的な恨みはないし、半分は人間なのだから特に殺す理由には該当しない。
だが、半分はヴァンパイアだ。必要に応じては殺さねばならない。
しかし、そんな理由じゃない。
ハラルドは自分の感情を見つめ直し、ため息を吐く。
自分はあの幼い少女に心を奪われてしまったのだ。
頭を抱えたくなる事実を振り払おうと必死に銃の手入れをする。
だが、今夜も夜の街で彼女と巡り会うことを期待している。
彼女がどこに住んでいるのかさえ知らない。
ただ、彼女の父親が祖父の仇だと言うことは確かだ。だからといって彼女には直接の罪はなく、彼女の母親はかつて失った婚約者と同じ名を持つことに何か意味があるとも思えない。
特に理由などないのだ。
時折からかいにくる、少し懐っこい性格は愛らしい。しかし、時折酷く冷徹。
ハンターとしての素質も十分にあるが、彼女自身はモンスター側でもあることに苦悩している。
いつか彼女もこちら側に来てくれないかと常に考えるのだが、それがいかに困難な道のりか、ハラルド自身も痛いほどよくわかっている。
人間ではない者は人間に受け入れられることはないのだ。
いっそ彼女が完全なヴァンパイアであれば、ためらうことなく殺すことができただろう。
だが、彼女は半分は人間だ。
人殺しはしたくはない。
しかし、彼女が完全に人間であったならば、出会うことがあったとしても素通りしてしまっただろう。
混血であることを除けば、ごく平凡な愛らしい少女なのだから。
ハラルドはもう一度銃を確かめ、出掛ける支度をする。
彼女のことを忘れるにも仕事が一番だ。
暇を作れば何かと理由を付けて彼女に会いたくなる。それはハンターとして問題ある行動になってしまう。
思考を振り払いながらリストに目を通す。
だが、このリスト自体があの少女の作成したものだ。
「……なにやってんだ、オレは……」
頭を抱える。
ハンターのくせにモンスターに頼り切って仕事してるじゃないか。
ただ、このリストは驚くほど正確で、本当に危険だと思われるモンスターには弱点の注意書きまである。
これは彼女自身が狩りをするときに使うリストだと言うが、その道三十年以上のベテランでもここまで正確なリストは作れない。
それを彼女は会う度に、ハラルドが催促するたびに週刊誌程の厚さのリストを渡してくる。
毎回情報は正確に更新されているが、ハラルドが彼女に会う時は大抵、彼女は普通の少女のように買い物をしていたりペットと遊んでいたりと熱心に情報収集しているようには見えない。
彼女の情報源がどこなのかと何度か考えたこともあったが、モンスターにはモンスターなりの情報源があるのだろう。
ただ、ヴァンパイアの娘の作るリストなだけあり、このリストにヴァンパイアが含まれたことはない。
理由を訊ねたことはないが、ヴァンパイアはヴァンパイアで身内を護ろうとしているのだろうと予測する。
ハラルドはずれた眼鏡を押し上げ、リストの一番上を見る。
ゾンビの情報だ。
彼女はリストを渡す時、ゾンビは何の考慮もなく殺すべきだと主張していた。
奴らには知能が無い。ただ、欲望のままに人々を襲う。更生させることは不可能だと。
そして、近頃はそんな奴らが増殖していると言う情報も添えられていた。
ゾンビを殺す確実な方法は脳を破壊することだ。銃よりも斧の方が確実かもしれないが、夜とは言え街中でそんなものを持ち歩くわけにもいかない。
今日も夜の街へ狩りに行くのだが、どうしても、夜の残酷なあの少女を思い浮かべてしまう。
昼間会えば、ごく普通の、買い物と甘いものが好きで、人をからかって遊ぶ少し生意気な女の子だ。
けれど、夜会えば、冷酷なハンターの顔を見せることもある。
彼女はどちらについても狩る立場になれる。
だから彼女はどちらにも受け入れられることがない。
ハラルドは商売道具の入ったハードケースにリストを突っ込み背負う。
そして随分と明るい夜の街へと気配を溶け込ませる。