お題用

□新たなる世界
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 ハンターになる理由なんて人それぞれだ。
 一番多い理由は復讐でその次が家業を引き継ぐというものが多いが、カーティス・キャロルはそのどれにも当てはまらなかった。
 彼がハンターになった理由はただ一つ。
 早起きが苦手だから。たったそれだけの理由だった。
 もともと殺しに抵抗はなかったし、なによりも才能があった。
 カーティスは自身のキレやすい性格を最大限に活かせる天職だと感じるほど、ハンターの仕事を愛している。
 もともとは依頼など受けずに独自に【殺してもいい連中】を探して殺していたところ、ヘルシングに声を掛けられハンターと呼ばれるようになった。
 カーティスにとってはその程度のことだ。
 そして、カーティスには復讐なんて理由でハンターになる連中のことが理解できなかった。
 その一番理解できない理由でハンターになった男と組むことになるとも思っても居なかった。
 カーティスを衝動殺人者からハンターに変えた男、ハラルド・ヴァン・ヘルシングは復讐の為にハンターになった男の一人だった。
 カーティス・キャロルという男はその時を楽しめれば満足という刹那的な快楽を求めるタイプの人間で、他人にもさほど興味が無い。ただ、ピエロを見るとどうしようもなく腹が立って叩きのめしたくなることを除けば普段は極めて無害な男だ。
 仕事が無い時はロックを聴くかポップコーンを頬張りながらホラー映画を見て一日を過ごし、情報収集や待ち伏せも苦にならない。
 仕事の時は決まってグレーのパーカーを着ているので、同業者からパーカーと呼ばれることもある。彼はそのことに対してなにも感じないし特に興味もなかった。
 殺すこと以外には興味が無い。理解できない物を追求するほど好奇心があるわけでもなく、とりあえずポップコーンとホラー映画があれば満足するような男だ。
 そんなカーティスは勿論友達と呼べるような相手はいなかった。ただ、あまり他人に干渉しすぎないので同業者から嫌われることはなかったし、彼の直感は同業者からも信頼されるものだったので酒や食事を奢られることは多い。
 けれども、カーティスが組んで仕事をする相手は、彼をこの世界に引きずり込んだヘルシングだけだった。

「それでよぉ。その生意気なピエロがさぁ。『い、いきなり何をするんだ』なんて言ってきてさぁ。あんまりムカつくんで髪の毛掴んだらさぁ、当然ヅラじゃん? けどよぉ、そのピエロ、地毛だったみてーでさぁ、取れねぇのよぉ。でオカシイって思うわけじゃない? んでさぁ、ちょっと、銀のナイフで切りつけてやったらさぁ。そいつ、トリックスターだったんだよ」
 カーティスは酒場で同業者に囲まれながら、ピエロへの暴行話を自慢する。
 彼のピエロ嫌いは有名だ。
 彼はピエロを迫害する。その理由は誰も知らないし、本人にも分からない。
 ただ、ピエロを見るとどうしようもなく腹が立って「てめぇオレをナメてんのかぁーッ!」と怒りを爆発させてしまうのだ。それは子供のころからずっと変わらず、年々残虐さを増して言った。
 今年24になるカーティスだが、人間のピエロとピエロに化けたモンスターは直感で見分けられるが、人間のピエロにだって容赦せず暴行を加える。違いは殺さない程度だ。
 しかし未だ一度も暴行罪で捕まったことはない。
「パーカーは本当にピエロを敵視してるよな」
「昔ピエロに苛められたとか?」
「んなワケねーだろ。なんかよぉ。あいつら見てるだけで腹が立つんだよなぁ。ガキの頃さぁ、親父が仕事で居ない間、ドまずい料理とピエロだらけのプレイルームに預けられてたことあったからかぁ? あのピエロ、くそムカつく顔してやがった。今なら殺してるな。絶対」
 カーティスはハンバーガーに齧りつく。
 店に入るときに同業者たちが彼の視界にピエロが入らないようにするのに少し苦労していたが彼はそんなことは気にしていない。
「んで、トリックスターはどうしたんだ?」
「ああ、それがよぉ。慌てて変身を解いて今度はストリッパーに化けたんだよ。けどさぁ、オレってあんま人間の女とかキョーミねーじゃん? ヘルシングもそんなかんじだしさぁ。ヘルシングなんて呆れて座ってくつろいでオレに後は任せるみたいな態度でさぁ。まぁ、オレはそーゆーの大歓迎だけど。んで、丁度いいとこに斧があったのよ。で、オレがその斧でスパーンっとそのストリッパーの首を切り落としてやったのさ」
 カーティスは一気にしゃべると今度はコーラに手を伸ばす。
「んで? 首を切り落としたくらいじゃ死なないだろ? トリックスターは」
「ああ。今度は信じられないと言う顔を作った後に、オレのばぁちゃんに化けて人殺しはよくないとか説教しだしたからよぉ。ムカついたんでよぉ、頭を蜂の巣にしてやったらようやく動かなくなって、なんかちっちぇー干からびたおっさんになった」
「ああ、パックだったのか」
「あいつらホントいろんな種類いるからな」
 同業者たちの笑い声が響く。
 こういう仕事の話はするが、カーティスは彼らの名前を知らないし、特に興味が無い。
 カーティスが興味を持つのは殺しだけだ。
「つーか、ヘルシング遅いな。あいつ最近付き合い悪いよな」
「なーんかさ、妙な女とつるむようになったんだよなぁ。オレは、あの女怪しいと思うんだけどさぁ。ヘルシングは協力者だって」
 カーティスはそれを不満に感じている。
 彼が唯一心を開く相手が突然現れたモンスターの女に奪われてしまったような気がした。
 ただ、あの女の正体は分からないし、殺せない。
 今はまだ他の連中に話すべきではないことも理解している。
「あいつが女? 気のせいだろ」
「いんや、随分若い女だ。どっちかってとグローリーが好みそうな感じのさ。北欧系の顔つきだな」
「へぇ。にしても、こんな小国なのにさ結構いろんなの集まってるよな。この国は」
「どうも近頃はいろいろおかしい。オレはそろそろアメリカに戻って狩りをするつもりだが……なんつーか、なんでも受け入れ過ぎなんだよな。この国は」
 お国柄のせいだぜと言う男の言葉をぼんやりと聞きながらカーティスは考える。
 確かに変だ。
 世界各地に散らばっていたモンスターが一か所に集まっているような錯覚に陥る。
 だが、この国はもともとそういうものが多い。種族が混合されているだけなのかもしれない。
 カーティスは時計を見て、やはりヘルシングが遅刻していると認識した。
 獲物でも見つけたのか。
 少しだけ期待する。
 ポテトでケチャップをかき回しながら、どうでもいいモンスター移住説を適当に聞き流した。
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