お題用

□1+1÷2≠1
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「また、貴方なの? ヘルシング」
 教会の屋根の上に腰掛けていたアリエルは自分の頭に銃口を向けている男を見上げた。
「また、なんて台詞は二度と吐けねぇぜ?」
「アンタ、今私を殺したらただの人殺しよ」
 アリエルは冷たく言い放つ。
「何だと?」
「あのね、普段の私がこんな場所に居られるわけ無いでしょ?」
 実際は平気だが、ヴァンパイアは神の栄光を恐れていると信じているヘルシングにアリエルはわざとそう言って見せた。
「……お前……まさかダンピールか?」
「ちょっと……今更?」
 アリエルは驚いた。自分は何度かこの男にダンピールだと宣言していたにも関わらず、この男はそれを綺麗さっぱり忘れ去っていたのだ。
「ってことは……今日は人間?」
「朝日が昇るまでね」
「朝日が昇れば?」
「ダンピールに戻るわ」
 アリエルはどうでもよさそうに答える。
「そのまま人間にはなれないのか?」
「さぁね」
 そう答えたとき、ヘルシングの横顔はどこか寂しそうだった。
「なに? 君は私に人間になってほしいの?」
「そりゃあ……極力殺したくは無いからな」
「あら、優しいのね。でも、私は今更人間になれない。それに……ヴァンパイアにもなれないわ」
 そう告げればヘルシングは驚いたような表情をする。
「どういうことだ?」
「私はどちらから見ても異質なの。そして、ダンピールにはダンピールの人生がある。私は中立じゃない。どちらにとっても敵になる」
 アリエルは目を閉じた。
「私の血は……ヴァンパイアにとって毒。けれど、私は人間の血液が無くては生きていけない」
「他の動物は試したのか?」
「哺乳類は全部ダメだった。鳥類も。爬虫類も。両生類になると試す勇気もなかったわ」
 アリエルは遠い目で言う。
「じゃあ……輸血パックは?」
「普段はそうしてる。けど、最近あんまり手に入らないの。それとも君が何とかしてくれるの? ハンターさん」
 でも、人間は襲っていない。
 こればかりはアリエルが胸を張って言えることだった。
「ずっと、は無理だろうな」
「でしょう? でも、誉めて。私は人間は襲ってないわ」
「ドナーが居るのか?」
「ええ、居るわ。とびきり丈夫なのが」
 アリエルが言うとヘルシングは少し困った表情をする。
「他のもので補えないのか? 血液は」
「んー、普段は普通のご飯よ? パスタとか結構好きだし。あ、私はサラダも好きよ。兄さんは嫌いみたいだけど。でも、やっぱり何かが足りないのよね。あ、そうだ、ハンターさん、ドナーにならない?」
「ふざけるな!」
「週に200mlでいいんだけど」
「献血より多いだろ」
「あら? ドナーの数を増やせばヴァンパイアと人間の共存は可能よ? そのときに私の居場所は無いけど」
「は?」
 ヘルシングはとっさにアリエルの肩を掴んだ。
「な、なんでもないの……忘れて頂戴」
「どういう意味だ?」
「……忘れてって」
 アリエルは俯いて口を閉ざす。
「お前は人間側に来れる」
「無理よ。だって半分は怪物よ? 決して交われないわ」
 それに。と彼女は続ける。
「怖いの」
「何が?」
「研究者が。一生研究所に閉じ込められるなんて考えただけでゾッとするわ」
「そんなことにはならないさ」
 ヘルシングの手の力が強くなる。
「お前は……人を殺したりはしないのだろう?」
「うん……でも、人は恐れる。私を。ダンピールを。そしてヴァンパアは厭うの」
 だって、ダンピールはヴァンパイア以上の魔力を、そして人間以上の霊力を持って生まれてしまうから。
「私の母は、巫女だったんだって」
「巫女?」
「あー、ちょっと言い方違うのかな? 聖女? 神様に仕える女の人」
 神様なんて見たこと無いけどとアリエルは言う。
「何でまた……」
「パパが一目惚れしたんだって」
 アリエルはヘルシングの手を外しながら言う。
「それはもう、暑苦しい恋だったらしいわよ?」
「暑苦しい? 熱いじゃなくて?」
「暑苦しいのよ。あの父上だもの」
 アリエルはそう言い切って立ち上がる。
「あの父上が居なかったら人間に生まれてたんじゃないかって、時々思う」
「父親を恨んでるのか?」
「まさか。今まで私を育ててくれたのは……兄さんだわ」
 思い返せば父は何もしていないような気がしてきたアリエルは頭を抱えた。
「あんなんでも大事な家族だもの」
「家族、か」
「うん。私にとって唯一の居場所。だから、壊さないで欲しいな……なんて言えないね。君には君の仕事があるんだし」
「ああ」
 ヘルシングは決まり悪そうは表情で頷いた。
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