お題用

□「どうして」なんて言えなくて。
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 深夜、朔夜は重量感で目が覚めた。
 俗に言う金縛りだろうかとどきりとしつつ、目を開けてみると、胸の上に有也の寝顔があった。

「もうっ……いつの間に来たのかしら?」

 きっと小学校低学年くらいの子供を持つ母親はこんな気持ちなのだろうと思いつつ、有也を抱きしめる。
「甘えんぼさんなんだから」
 呆れつつも、朔夜はもう一眠りにつくことにした。








「げっ……」
 朝、目を覚ました有也は身動きが取れないことに気がついた。
 一瞬頭が目覚めていないのだろうかな度と考え込んだが、頬に柔らかな感触を覚え、現実に引き戻される。
 朔夜だった。
「何で朔夜のBカップが目の前に……」
 抱きしめられる手が随分と優しく、母親の腕はこんな感じなのだろうかと想像する。
「おーい、朔夜……おきろー」
 いつも見るのとは違う角度の寝顔に思わずどきりとする。
「ゆーくん……」
 寝ぼけた朔夜が頬にキスを落としたので有也は驚いた。
「おい、起きろ」
 軽く朔夜の肩を叩く。
「……んー……ゆーくん?」
「お、おぅ……」
「どうして私の上に居るの?」
「しらねーよ。目が覚めたらお前にがっちり抱きしめられてたんだからよ」
 朔夜は考え込む。
「昨日の晩には既にゆーくんは私の上に居たんだけど?」
「はぁ?」
 記憶に無いことを持ち出されて有也は戸惑う。
「お部屋間違えちゃった?」
「……寝ぼけてたらありえる」
 朔夜が用意した客室は朔夜の部屋のすぐ隣だった。寝ぼけて間違えた可能性は無いことも無い。
「わ、悪い……」
 有也は慌てて朔夜から離れる。
「別にいいわ。温かかったし」
「へ?」
「秋って肌寒いのよね」
 朔夜はそれだけ言ってクローゼットを開き始める。
「そろそろ衣替えしなきゃだめかしら?」
「まぁそんな時期だな」
 朔夜がいくつか服を引っ張り出すのを眺めながら有也は答える。
「ゆーくん、これ着る?」
「おー、悪ぃな」
 泊まる日は朔夜の服を借りるのが習慣になりつつあった。
「じゃあ、私着替えるから出て行ってくれる?」
「わかったよ。っちぇ、朔夜の脱ぎっぷり見させてもらおうと思ったのによ」
「ゆーくん? 怒りますよ?」
「へいへい」
 何故かは解らないが朔夜には頭が上がらない。

 何より、朔夜が何故あの状況で怒らなかったのかさえ予測不能だ。

「朔夜の奴、何考えてるんだ?」
 まだ、あの温もりが、感触が残っているような気がする。
 そう思うと、有也は急に恥ずかしいような気がし出した。







うして」なんて言えなくて。

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