お題用
□花で作った王冠を捧げる。
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「ファニー、見て、すっごく綺麗!」
「ええ、そうですね」
フランシスとアリエル、ディーヴィス家に居る者の中で昼間にも活動できる二人は昼のうちにこっそりと家の裏の丘に上がった。
「これ、なんて花?」
「マーガレットですね。デンマークの国花です」
「へぇ」
アリエルは興味深そうに花を見る。
「ねぇ」
「また悪戯の相談ですか?」
「ふふっ、うん」
アリエルは笑う。
「兄さんのベッドに大量に飾ってあげようと思って」
「飾る?」
「うん。お葬式みたいに」
「オソウシキ?」
フランシスは首を傾げる。
「お葬式。死んだ人を弔うの」
「何故それを?」
「ヴァンパイアは死ねないから」
「……お嬢様? 最近悪戯と言うより、お坊ちゃまを精神的に追い詰めたいだけのように思えるのですが」
「さぁね」
アリエルは悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「日ごろの恨み、いざ晴らさんってね」
「日ごろの恨み?」
「試作品のバナナたい焼き、兄さんに食べられた」
アリエルは悔しそうにそう言う。
「日本にはね、食べ物の恨みほど恐ろしいものは無いって格言があるらしいわ」
「なるほど」
フランシスは真剣な表情で頷く。
「それで、お嬢様、今回はどのようなお説教をお望みなんですか?」
「ファニー、共犯者よね?」
一緒に抜け出したでしょ? とアリエルはフランシスを見上げる。
「……解りました。三日間地下牢にお供させていただきます」
フランシスは思う。
もしかしたらこの少女についてきた自分は人生のある可能性を捨ててしまったのではないかと。
だが、今この生活を幸せだと感じるのもまた事実なのだ。
研究所の水槽や手術台の苦痛に比べれば、目の前の少女と共に薄暗く少し黴臭い地下牢に閉じ込められることさえ幸せと思える。それ自体にここに居る意義はあるのではないかとさえ思える。
「ファニー、手伝って。早くしないと夕方に間に合わないわ」
「大丈夫ですよ。まだ四時間もあります」
「四時間でもう少し凝った演出を考えなきゃ。音楽は何がいいかしら?」
「音楽も必要なのですか?」
楽しそうに花を摘み始めるアリエルは本当に外見と同じ、いや、それよりも低年齢層の少女に見える。
「それっぽくしなきゃ。兄さんの呆れた顔が楽しみだわ」
「それが目的ですか?」
「さぁ?」
悪戯っ子の共犯者。
まさか自分がそんな体験をするなどとは思っても居なかったフランシスは少し戸惑いながらも心地よさを覚えた。
「そうだ、ファニー、精一杯泣いているフリしない?」
「泣いているフリ?」
「そう、葬儀には昔から泣き女って言うのが付き物なんだって。前にオスカーと見た芝居の悪役参謀が言ってた」
アリエルは花を摘み続ける。
「お芝居も観に行かれるのですか?」
「そうよ。教養の一環。それに、お芝居って結構夕方から始まるのが多いからたまに兄さんとも行ったりするの。パパはオペラしか一緒に行ってくれないけど」
アリエルは笑う。
「それは」
フランシスは思う。
芝居とは何の価値があるのだろうか。
舞台の上だけで架空の空間を作り出す。それに何か意義があるようには思えなかった。
「ファニーも今度一緒に行く?」
「え?」
「確か週末に「夜の来訪者」が公演されるはずだよ。大学生の演劇だからどのくらいのレベルかは解らないけど、高校演劇よりはしっかりしてると思う」
「学年によって演劇も変わる?」
「うーん、と言うより専門の先生が顧問についている高校とか演劇に特化した大学とかはそれなりにクォリティ高いと思うわ。でも、ほら、たまに居るじゃない。お客さんにお尻を見せちゃいけないって教える先生。そういう先生が顧問の高校はあんまり面白くないと私は思うわ」
あとは好みの問題よ。と彼女は言う。
「お嬢様は演劇は好きなんですか?」「総合芸術ならオペラが好きよ。「カルメン」「蝶々夫人」「魔笛」「椿姫」なんかもいいわね。この前観たのは「恋愛禁制」だったわ」
アリエルは手を休めずに言う。
「ほら、ファニー手伝って」
「はい」
フランシスは花を摘みながら、アリエルの話に出てきたオペラと言うものに思いを寄せていた。