お題用

□それはとても特徴的な。
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「ねぇ、オスカー」
「んー?」
「これ」
 アリエルは前にヘルシングが落としていった十字架をオスカーに向けた。
「なんだ? それ」
「あれ? なんともない?」
「だからなんだよ。そんな古びた十字架」
 モンスターハンターは必ずと言っていいほど持っている十字架。
 残念ながらダンピールであるアリエルには全く効果が無い。
「いや、ハンターはみんな持ってるし、兄さんやパパは少し嫌そうな顔をするから」
「ふぅん。お前の家族、とことんバケモンだな」
「なによ。アンタなんて純血のウェアウルフでしょ?」
 アリエルはオスカーを睨んだ。
「まぁ睨むな。俺の推測だが、十字架を恐れるっつーのは多分迷信だ」
「へ?」
「それにアンデット、ヴァンパイアとかゾンビとかその辺りにしか効果は無いと俺は考えてる」
 アリエルは首を傾げた。
「どういうこと?」
「まぁ、俺が日本生まれ日本育ちってもの関係あるんだろうけど、神の栄光を信じるか信じないかだと思う」
「神の栄光?」
「お前んち、祭壇作ってなかったか?」
「あるけど」
 アリエルは祭壇を思い出す。小さな教会のようになっていた。尤も今となっては埃臭い荒れ果てた部屋だが。
「かつては信仰心が会ったって事だろう?」
「そうかも」
「つまり、自分が人間ではないと認識させられることに嫌悪感があるってことだろ」
「ふぅん」
 アリエルは十字架を見る。
「ウチとソトって日本では考える」
「ウチ? ソト?」
「つまり内側と外側」
「ああ」
 境界がはっきりしていることかとアリエルは納得する。
「内側の奴らが崇拝しているもの、もしくは内側のやつらのコミュニケーションや考え方の中心となるものがこの十字架だとする。それで、内側の奴らが外側のものを嫌う。迫害しようとする。その時にこの十字架がシンボルとなれば嫌悪感もあるだろう。そういうレベルの話じゃねぇの?」
「あー、そういうこと」
 そして、アリエルは思い出す。
「あ、そういえば、オスカーアンタ籠目見ると動けなくなるよね」
「ぐっ……それは……」
「へぇ、アンタもそういうのあるんだ」
 アリエルはにやりと笑った。
「う、うるせぇ……仕方ねぇだろ」
 そういう条件反射だと彼は言う。
「まぁいいわ。兄さんにも試してみよう」
「……ほんっと嫌なヤツだよな。お前」
「ふふっ、ありがとう」
「なんでお前、平気なんだよ。そういう弱点無いよな」
「だってダンピールだもん」
 アリエルは思う。
 この呪われた血にも意外と使えるものがあるのかもしれないと。
「へぇ、でも知ってるぜ」
「なに?」
「お前、マイマイガ苦手だろ」
「あれは生理的嫌悪よ。気持ち悪いじゃない。大量発生して。お陰で近頃兄さんが居ないと夜の外出できないわよ!」
「なんで兄貴が登場するんだ?」
「兄さんがガスバーナーで焼き殺してくれるの」
「……火事に気をつけろよ」
 オスカーは呆れたように言う。
「大体あんなの平気な女の子がどこにいるって言うのよ!」
 アリエルはオスカーを突き飛ばして部屋に戻った。
 ベッドに寝転がり十字架を見る。
「……なによ。どうせ私はヴァンパイアじゃないわ」
 十字架が「半端モン」と罵っているように見えて、アリエルは十字架を窓から投げ捨てた。
 

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