お題用

□伸ばした手
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「ねぇ、ヘルシング」
「何だ?」
 薄暗い研究室で棒付きキャンディーを舐めながらグローリーはヘルシングに声を掛けた。
「彼女はどれが好きだと思う?」
「は?」
「キャンディー。どれも美味しいから迷うよね」
「いや、何の話だ?」
 呆れ顔のヘルシングが問う。
「何って決まってるじゃん。僕の愛しのダンピールちゃんへの貢物」
 ヘルシングは絶句した。
「飴で釣れるほどガキじゃねぇだろ」
「残念。ダンピールちゃんのために人造人間の血液味のキャンディーも作ったのに」
 あまり残念では無さそうにグローリーは言う。
「どうせなら輸血パックでもプレゼントしたらどうだ?」
「いや、なんかそれじゃ明らかに僕より食事目当てじゃん? 流石にメッシーくんにはなりたくないな」
「……好きにしろ」
 ヘルシングはもう何も言わないことにしようと決めた。
「ねぇ、ヘルシング」
「もう黙ってくれ。頭痛がしてきた」
「僕にそんなこと言っていいのかな? 誰がその身体メンテナンスしてるか解ってる?」
「へいへい、今度は何だ」
 嫌なやつに弱味を握られているとヘルシングは危機を感じた。
「なんでさ、彼女は僕を見てくれないんだろう?」
「そういう相談は人造人間にしたらどうだ?」
「だから君にしてるんじゃないか」
 ヘルシングは溜息を吐いた。
「で? 俺にどうしろと?」
「手っ取り早く言うとー、また彼女、捕まえてきてくれない? 今度は巧くやるから」
「は?」
「ほら、新薬開発したし、麻酔で大人しくさせて結婚式挙げちゃおうかな? って」
「……却下」
「ええっ! なんでさ」
「あれが麻酔で大人しくなるはず無いだろう。後始末が大変だ」
「じゃあどうしたらいいのさ」
「百夜通いでもしたらどうだ?」
「何? それ」
 グローリーは語学は得意じゃないんだよと言う。
「日本では昔通い婚とかいう習慣があったらしい。それで何度行っても会ってもらえなかった男が百夜通い続けたら結婚してもらえるっつーんで毎夜通ったって伝説だよ」
「うわー、それ、すっごく時間の無駄」
「だったら他の女捜せ」
 ヘルシングは深い溜息を吐く。
「嫌だよ。あそこまで僕を見てくれたのは彼女だけだ……ってことで、ヘルシング、とりあえず捕まえてきてよ」
「は?」
「逃げ出すたびに捕まえれば彼女だって諦めるでしょ?」
 グローリーは楽しそうに笑う。
「僕が欲しいと思って手を伸ばして手に入らなかったものは何も無い。僕はただ、彼女が、ダンピールちゃんが欲しいんだ」
「悪趣味だな」
 ヘルシングは軽蔑の眼差しを向ける。
「何とでもいいなよ。ほら、速く行ってきて」
「……人使いの荒いヤツめ」
 ヘルシングは忌々しそうにグローリーを睨みつけ研究室を出て行った。

「ああ、早く君に逢いたいよ。僕の可愛いダンピールちゃん」
 うっとりと写真に語りかけるグローリーを見たものは、試験管の中のヴァンパイアの目玉だけだった。

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