お題用

□逆らわない、逆らえない。
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 ゆーくんはいつだって強引で、私が考え付かないようなことを予告なしでやってしまう。
 それが良いことなのか悪いことなのかは私には分からないけれど、彼がそれを楽しんでいるということだけは理解できるから、呆れはしても止めることはない。
 今日だって有也は私の隣でなにやらちまちまと作業をしている。
「何を作っているの?」
「んー、リング」
「……なんで私の家でそんな作業をしているのかしら?」
 突然「朔夜ん家行って良いか?」なんて電話が来て何事かと思って慌てたのにも関わらず、彼は大きな包みを持って、やってきて、居間で作業を始めたのだ。
「朔夜も手伝ってくれね?」
「……何を?」
「何でも良い。とりあえずフリマで売れそうなもの作ってくれ。布とかビーズとか色々買ってあるから」
 ダチに頼まれてんだよと彼は言うけれど、なんで有也にそんなことを頼んだのだろうとその友人を恨めしく思う。
「ビーズ貸して頂戴。ネックレスくらいなら作ってあげるわ。その代わり、高いわよ?」
「げっ、何を要求する気だ?」
「ボロネーゼが食べたいわ」
「……お前……ほんっと色気より食い気だな」
「だってずっとたまごかけごはんだったんだもの」
 料理の練習をしても炭化物しか生産できないから結局そうなる。たまには私だってまともなものが食べたい。
「ほんっと、手先は器用なくせに何で料理は出来ないんだよ」
 有也は呆れたように言う。
「あら、良いじゃない。ゆーくんが作ってくれるでしょ?」
 それに吉良さんが見兼ねて何かを持ってきてくれるもの。
 私の周りの男性は料理上手な人ばかりで助かるわ。
 有也には言えないけれど。
「はい、出来た」
「……お前、こういうのは早いよな。何気クォリティ高く見える」
「パーツが大きいから楽よ」
「手、抜いたのか?」
「まさか。この材料じゃこんなのしか作れないわよ」
 有也はでかいほうがカッコいいだろなんてよく分からない持論を展開するけれど、売り物にするならそれなりに考えて欲しい。
 思わず溜息が出る。
「朔夜、もうちょっと色々作ってくれ」
「はいはい」
 なんだか、有也を見ていると子供みたいで、母親になった気分だ。
「朔夜って、良い母さんになりそうだよな」
「なる気はないわ。有也って手のかかる子がいるもの」
「……俺はガキか?」
「そうね」
 落胆した様子の彼は可愛らしくも見える。
 私は加虐癖でもあるのだろうか。
 愛らしくも憎たらしい彼に逆らおうとも思わず、かといって従うわけでもない。
 ただ、私も呆れられるほどに勝手だ。
「ゆーくんお姉さんに手伝ってもらえばよかったじゃない」
「姉貴は恐ろしいほど不器用なんだよ」
「まぁっ」
「それに、朔夜の前のほうがはかどる」
「なぁに、それ」
「朔夜なら手伝ってくれるし」
 つまりは彼は私に対して甘えがあるのだろう。
 彼に甘えているのは私も同じで。
「お互いさま、かしら?」
「だろ?」
「それで来たらボロネーゼお願いね」
「出来たら、だったら数時間後になるぞ?」
「じゃあ、中断。お腹すいたわ」
「へいへい」
 有也は大きく伸びをしてキッチンへ向かう。
 もう、この光景が当たり前で。
 時の流れには逆らえない。
 そう思わずにはいられない。

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