***sTorY***

□監察を侮るなかれ
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「一人かぁ?見捨てられたんじゃねーのか?」


敵に周りを囲まれ、そう嘲笑われる。


「くっ…」


俺ァ、珍しく戦場で窮地に追いやられていた


一番隊隊長が聞いて呆れるぜぇ


見捨てられた
敵の言葉が頭に響き
先程のシーンが蘇る


俺が窮地に立たされると同時に
他にも窮地に立たされているやつがいた
その時、土方さんは…俺を置いて、真っ先に他の奴の助けに入った

キチンと考えればそれは当たり前のことだ
俺ァ一番隊隊長で
隊の中でも一番腕が立つ
他の奴を助けるのは当たり前。

だけど、他の奴の為に命を張って走り去る背中を見るのはつらすぎた。

家族同然に幼い頃から過ごしてきたのに…

そんな動揺から戦いの場で冷静さを欠いた俺は
敵に周りを囲まれてしまった

いつもいつもたちの悪い悪戯ばかり仕掛けてるんだ
嫌われていても仕方ねぇか
そっと息を吐き出し


カチャリ


刀を持ち直す
取り囲む敵に目を向け


このままむざむざとやられるつもりはねぇ


深く息を吸い込み
勢いよく踏み込もうとした時に
背後から気配を感じる


「待たせたな。」

「土方さん!?なんで…」

「話しはこいつら全員倒した後だっ」


そう言うと次々に斬り込んでいく
その逞しい背中を見ながら俺も勢いよく飛び出した


「なんとかカタは着いたな。あー、体中がいてぇ…」

そんな言葉を土方さんがタバコの煙りと共に吐き出す。


「…そうですねィ。
とりあえずさっさと後処理して戻りますかァ…。」


戻ってきた
たった一人で
ボロボロの姿で

なんでだ?放っておきゃいいのに

矛盾した感情を抱く。

他の奴を真っ先に助けに行く土方さんを見て胸が張り裂けそうに辛い

それなのに戻ってきた土方さんはあまりにもボロボロで
そんなになってるなら戻ってこなくてもよかったのに

それでも戻ってきてくれた事は嬉しく感じる

だけど
もし
間に合わなかったら?

戻ってきてくれたが
手遅れだったら?

嫌な考えが過ぎり

見捨てられた…

その一言が頭にこびりつく。
くそっ。
だいたい、他の奴を助けに行っただけで
動揺する甘さを持ってるテメェに嫌気がさす。
揚句の果てに守る立場なのに守られて…

「土方さん。」

「あ?なんだ?」

「…いや、別に、なんでもねぇでさァ。」

「変な奴。」

聞きたい事は沢山あったが
自分の甘さを軽蔑されそうで口をつぐんだ。

さっさと帰って、熱い風呂にでも入ってゆっくり眠ろう…



「沖田さん、お帰りなさい。
かなり接戦だったみたいですけど、大丈夫ですか?」

山崎が心配そうに声をかけてくる

「あー?大丈夫でぇ…
帰ってきたんだから、見りゃわかるだろ…」

「それはそうですけどぉ〜」

山崎が口を尖らせるが可愛くもなんともねぇ。

「俺ァ、風呂入って寝るから。」

「お湯入れたばっかたら気持ちいいですよ〜
あっ、お帰りなさい。」

話しかける山崎を無視して足を進めるが
その一言に振り返る。

「おぅ、山崎、ちょっとコイツの具合、見てやってくれ。」

そこには土方さんと、土方さんが助けに入った奴が立っていた

「ありゃりゃ、大丈夫ですか?こっち来て下さい。」

山崎がそいつの手を引き、心配そうに肩を貸す。

「俺ァ、風呂でも入るから。後はよろしくな。」

土方さんが歩き出すのを追いかけるように助けられた奴が叫ぶ


「土方さん!助けてくれて、ありがとうございました!
俺っ俺…見捨てられるかと思って…
本当にありがとうございました!」

「見捨てるわけねーだろ、バカか。
とりあえず、ゆっくりしてろ。」


見捨てられるかと思って…
俺ァ見捨てられたってわけか!?

見捨てるわけねーだろ…
俺だったら後回しでいいってわけかよ!?


「じゃあ!俺ァ、見捨てられそうになった。って事ですかィ?」


考えるより先に口走っていた。


「沖田さん!?」
「総悟!?」
「隊長!?」

口々に驚いた様に口走る。


「なぁんて、冗談でィ。皆が無事でよかったじゃねぇか。
さっ、沸かしたての風呂でも入るかねぇ〜」


気まずくなった俺ァ、冗談めかした言い方でその場を後にする


「総悟!待て!!」

着いてくんなよ。土方コノヤロー。

「待てよ!!」

「るせぇな、ついて来ないで下せィ。」

「待てって言ってるだろ!」

ぐいっと腕を掴まれ
無理矢理振り向かされる

「総悟っ…お前。」

驚きに満ちた表情を浮かべる土方さんの腕をバッと振り払い無言で歩き出す。

涙を堪えた俺の目は揺れていたはずだ。


見捨てられた


何度この言葉が頭を過ぎっただろう…


ぶくぶくと熱いお湯に浸かっていても
気持ちはいっこうに晴れない。


ガラガラと扉の開く音が聞こえ湯気の向こうに人影が揺れる


土方さん!
会いたくねぇ。
会ったらどんな言葉を口走ってしまうかわからない
酷く罵ってしまうかもしれない
幸いにも向こうは気付いていないみたいだ
そーっとその場を離れようとすると


「総悟、後で部屋に来い。」


体がビクッと震える。
ちっ、バレてたか。
有無を言わさぬ物言いに渋々返事をする

「わかりやした。」

「絶対に来いよ。」

「へぃへぃ。」

眠ってなかったら、ね。
心の中で呟く
正直、戦いで体は疲れ切っている
ましてやこんな気持ちで話しなんざ聞く気にならねぇ。
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