***sTorY***

□監察を侮るなかれ
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部屋に戻るとさっさと布団に潜り込む。
うとうとしていると
扉が開き、誰かの気配を感じる。


「んん…」

「部屋に来いっつったろ。」

どこか優しさを含んだ声で話しかけられる

「…土方さん?」

起き上がろうとすると

「疲れてんだろ?いいから、そのまま聞け。」

そう言うと、枕元にドサッと腰を下ろした。

「総悟、お前さ…俺が見捨てたと思ったんだろ?」

いきなり核心をつかれグッと息が詰まる。

「っ…。あれぇ?違ったんですかィ?
てっきり俺ァ、そうだと思ってました。
憎たらしい俺が居なくなりゃ、清々するんじゃねぇですか?
悪戯を仕掛けられる事もなくなるし…」

出来るだけ憎たらしい口調で話す。
いつもなら、憎まれ口を返す土方さんが真面目に続ける


「正直、迷ったんだよ。」

「は?迷った??」

「そぉ、迷った。
でも俺ァ、アイツを助けるのを選んだ。
なんでか、わかるな?」

諭すような口調に素直に答える。

「俺が、隊長で、アイツは隊員だから…ですかィ?」

「んー、まあ、そうだ。
お前は強い、だから大丈夫だと思ったんだ。
俺がアイツを助けてから、戻っても、きっとお前は気丈に剣をふるっている。
そう思ったんだ。」

「でも…間に合わなかったら?」

疑問が思わず口をつく

「間に合わせる。何がなんでも。」

揺るぎない口調にドキリとする。

「そっ、そんなのわかんないじゃねぇですか!」

「わかんねぇよ。
でも、間に合わなかったら俺ァすげぇ後悔する。
それだけはわかってる。」

「土方さん…」

「いいか、総悟。
お前が何をくだらん事考えてるかなんか知らねぇが
俺ァ何があってもお前を見捨てる事はねぇ
それだけは、わかってくれ。な。」

何を考えているか知らねぇと言いながらいつだってお見通しだ。
欲しい言葉をいつもくれる。

「くっ…」

言葉に詰まる俺の頭を
何もいわず、優しく撫でる

「それに、お前の悪戯だって
ガキの愛情表現みてぇなもんだろ?
あんな事で確認しなくても、俺ァ、離れちゃいかねぇ。
もっと素直に甘えてこいよ。」


さらに核心を突かれかああっと顔が熱くなる。

うるせぇ!

ガキの愛情表現…
ったく、親気取りかよ…
離れちゃいかねぇ
そうは言っても、いつか離れていっちまうんだろうな…
いつまでも一緒。ってわけには行かねぇ。

土方さんは欲しい言葉をくれる
でも、1番欲しい言葉はくれない。
一人の男として見てくれりゃぁ…
って、男として見られても意味ねぇか。


そんな事を目をつむり考えていると


「寝たのか?しょぉがねぇ…
部屋に戻るか。」


見捨てられた


敵の言葉が頭に響く…

違う。違う。違う。
たった今、土方さんが言ってくれた
欲しかった言葉をくれた
それでも走り去る背中が離れない
頭ではわかっていても
心が絶望を簡単には拭い去れず
思わず土方さんの袖を掴む

「…いやでさァ。」

「は?寝ぼけてんのか?」

そうだ。俺ァ、寝ぼけてんだ。
そういう事にしよう。

さっきよりも強く袖をキュッと握る

「んん…いて、くだせぃ…」

「おいおい、いきなり素直過ぎねぇか?」

「すーすー」

「やっぱり寝ぼけてんのかよ。ったく、しょぉがねぇな。
あーっもう。」

ちっ。と舌打ちすると布団に潜り込んでくる。

うっそ!まじでか!
寝ぼけたふりって使えんな!!
ドキドキと高鳴る胸を悟られないよう
潜り込んできた土方さんにくっつく

「ちょ、総悟…。」

困ったような声を上げ
仰向けに寝転ぶ土方さんに
左手を腰まで巻き付ける
土方さんの身体が少し強張る。


「枕…んん…まくらぁ…」

「んだよ、抱き枕かっつーの。」

土方さんは身体の力を抜くと、少し安心したように呟く。

ちげーよ。腕枕だよ!
土方コノヤロー!!
ちっ。心の中で舌打ちをし
土方さんの左腕をとると、ぐいっと自分の頭の下に潜り込ませた。


「腕枕って…総悟…、総悟?やっぱり寝ぼけてやがる。
ったく、女かよ!」


ズキリと胸が痛む。
女だったらどれだけよかったか。
俺の気も知らねぇで…
でも今だけは
土方さんの温もりに触れていられる
そう思い、回す腕に力を込める

はあああ…と諦めたようなため息が聞こえ
グッと頭を引き寄せられる。

土方さんの心音が聞こえる。
あれ、なんか、早くねぇ?
ちょっとはドキドキしてくれてたり…


すーすーと寝息が聞こえてきた。


んなわきゃねぇか。
ガックリしながらも幸せな状況に俺もいつしか意識を手放した。
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