***sTorY3***

□小さな灯
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くだらねぇ…



いつも心の中で呟いていた




この世界も、周りの奴らもくだらねぇ。



食堂でぼーっと飯を食う俺に山崎が近寄る
無視するがお構い無しに声を潜め、話し掛けてくる



「なんでぃ?」


「また沖田さんの事、噂してますね…」


「噂ぁ?」


「沖田さん…知らないんですか?」


山崎が何に驚いているのか、皆目検討もつかずに尋ねる


「だから、なにがでぃ!」

「沖田さんて、ほんっと周りに興味が無いんですね。
落ち込んでるかと思って声かけたのに…」


「落ち込む?どぉせくだらねぇ噂だろ?」


俺の周りへの無関心さと反比例して
周りは好き勝手に噂する。


この見た目と年齢で隊長をしているのが気にくわねぇらしぃ


くだらねぇ。



俺の心は戦場でのみ昂揚する

強い奴を信頼する
周りに怪我をする奴がいても、弱い奴が悪ぃんだ
正直、そんな考えすら浮かぶ
心配しないわけじゃねぇが
ただ、仲間の命がそこで尽きてしまったとしても涙までは出ないんじゃねぇか
そんな事を思う
きっと、どこか欠落してしまっている
感情が鈍いんだろう



さてと



せっかくの非番だ
うるせぇニコチンマヨ野郎は現場に駆り出されてるみてぇだし
ゆっくり昼寝でもするか



まだ何か言いたげな山崎を尻目に部屋へ戻っていると
バタバタと後ろから足音が聞こえ、振り向く


「山崎ぃ?なんでぃ、まだなんか用かぁ?」


心底、面倒そうな声を出す俺に
真剣な顔で詰め寄り腕をとると歩き出した


「沖田さん!来て下さい!現場から応援の要請です!」

「わっ!ちょ、山崎ぃ!
引っ張んなって!土方さん達がいるなら、大丈夫だろ?」

「その土方さんが、怪我してんですよ!」

まさか!!
あの土方さんが、応援を呼ぶくらいの怪我なんかするわけねぇだろ…

驚きで完全に思考が止まった俺を
山崎がぐいぐいと引っ張り、現場まで車で連れていった


ちょうど俺が車を降りるのと同時に土方さんが両脇から体を支えられ
ふらふらとこちらに歩いてくる

なんでぃ…あれ、血まみれじゃねぇか!!

「土方さん!」

駆け寄ろうとする俺を山崎が止める

「沖田さん!いまは、早く敵を!」


敵…そうだ!敵!
誰だ!?
誰がやったんでぃ!
土方さんにあんな傷を負わせたのは誰でぃ!!!


俺の心は怒りに燃えていた
詳しい話しも聞かずに走り出す


そこから先はあまり覚えてねぇ


誰がやったかわからねぇなら一人残らず斬ればいい
ただひたすら、斬って斬って斬って斬って
気付いた時には屍の山が出来ていた
その前に立ち尽くす俺に山崎が声をかける


「沖田さん…ほとんど一人でやっつけちゃったんですね。」


そうなのか…
なら土方さんの敵討ちは出来ただろう
ふっと肩の力が抜けふらつく

「大丈夫ですか?」

「大丈夫でぃ。早く戻るぞ」

いまは土方さんの具合が気になって仕方なかった

サイレンをならし、一目散に頓所へ戻る

「近藤さん!土方さんは?」

俺の姿を見て近藤さんが声を上げる

「総悟!お前、血だらけじゃないか!」

「全部、返り血なんで大丈夫でさぁ。
それより土方さんは?」

「いまは落ち着いて、眠ってる。
出血が多かったみたいで、当分は安静だ。」

「当分って…どんくれぇですか?会えるんですよね!?」

「まぁ、すぐに会えるさ。
いまはそっとしてやってくれ。」

そう言いながら頭をポンッと撫でられる

顔を直接みたかったが、眠ってるなら仕方ねぇ
それに重体なら頓所にゃいねえか…
病院じゃなく、ここにいるなら
近藤さんの言う通りすぐに会えるはずだ

「…わかりやした。今日は俺も寝ます。」

ほとんどの敵を一人でやっつけた実感は無いが、疲労感がそれを物語っていた
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