捧物SS

□甘い罠
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雲一つない晴天が、これ程恨めしく思えたことなど一度もなかったはずだ。そう、初夏を思わせる暖かな日差しが窓から入り込んで、一層今の状況を落ち込ませていた。

「・・・手を動かさんか」
「・・・ハイ」

今日何度目かのやり取りを、重苦しい執務室で交わす。グウェンダルと二人きりでせっせと仕事をこなしているはずだった。そう、こんなに晴れなければ気分は憂鬱に はならなかったろう。

はぁ・・・

何度となく吐かれる溜息は、もう既にユーリの意思などお構い無しだ。窓をちらりと盗み見ては、零される溜息にグウェンダルは重い腰を動かそうとした時だった。軽いノック音がしたかしないかの内に扉は勢い良く開かれた。

「ここに居ましたか、グウェンダル。陛下の執務室に身を隠すなど卑怯だとは思わないのですか。全くこれだから貴方はだらしないというのです」

入るや否や、声高に言い放つアニシナに反論するべく珍しくグウェンダルは声を出した。

「別に、隠れているわけではない。陛下にしか出来ない仕事をこなしてもらわねばならんので、こうしているのだ。お前にとやかく言われる・・・」
「笑止。仕事仕事と言ってばかりおらず、この私の崇高なる開発の名誉ある『もにたあ』におなりなさい」

ビシッと突き出された人差し指は、グウェンダルを捕らえて離さない。逃げることは許されないと、死亡宣告のも似たそれを突きつけられているのだ。流石に観念したグウェンダルは、机上を整理し一言だけユーリに言った。
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