捧物SS

□秘密の花園
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活気に満ちた眞魔国の城下を、鼻歌交じりで闊歩するガタイの良い女が一人。体躯に似合わぬ可愛いフリルのついたビロードのショートドレスを着ている。この街では見かけぬデザインに、好奇と奇異の視線が投げかけられている。

いやぁ〜ん、グリ江ってばかわいすぎぃ〜?視線独り占めぇ〜!
あぁ、なんて気持ちいいんでしょ

当の本人は視線の意味を、曲解もいいところで受け止め浮かれている。実際彼女の、いや彼の着ている服は既製品ではなく手作りだ。デザイン性というのも有るのだが、実際は体のサイズに合う既製服が手に入り難いのが最大の理由である。
今回のは、最高の自信作だ。何と言ってもこの世界にはないテキスタイルから取ったものだからだ。

もう、猊下からいい本貰ったわぁ〜

そう、珍しく彼がヨザックを呼び寄せ一冊の本を手渡した。
『ゴスロリの世界へようこそ』と言うタイトルの本。きらりと光る眼鏡の奥の瞳は何を考えているのかは、全く分からない。ヨザックはそこに写っている少女達が身に着けている服に、目を輝かせた。字は当然分からない。

「グリエにこれを上げるよ。仕事上役に立つかも知れないしね。いつも手作りなんだろうから、この位簡単に自分サイズに出来るんでしょ」
「えぇ、そりゃもう、お手のもんです。ですが、良いんですか、高価なんじゃないんですか?」
「ん?これかい?大したことないって、じゃ、あげたからね」

言うだけ言って、背を向けて歩き出した村田に向かってヨザックは声をかけた。

「有難うございます。猊下」

その声に振り向きもせず、手を軽く翳してその場から立ち去っていった。
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