「麝香(ジャコウ)-MUSK-」

□第2章 X
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詩織は俺の顔を見るなり、険しい顔つきで息を荒げて言った。

「高橋君、その家の角に覆面パトが停まってた。張られてるよ」

そんな事より、詩織の不審な服装に疑問を感じた。

「おまえ、何だよ?その格好…。誰かと思ったよ」

彼女は目を伏せ背を向ける。
あの清楚な詩織は何処へ行ってしまったんだ。
俺は目を疑った。

赤いハイヒールに同じ色のミニ丈のドレス。そして黒いストール。
どういう心境の変化なんだ…?

「私、こんな事になって、やっと気づいたの。大変な事してしまったって」

詩織は動揺していて、俺の言葉も聞かずに低い声で呟くように話し出す。

「詩織…?」

明らかにいつもの詩織ではない。困惑した顔を向ける。

「あの悠璃って人が新聞に載ってから、ずっと不安だった。もしかしたら私も捕まるんじゃないかって…」

「何言ってんだよ。詩織。…ひょっとして、おまえ何かやらかしたのか?」

彼女を奥の部屋へ入れた。
何故か詩織は俺と1m以上の距離を置いて座る。

「…私、本当は春奈の事、ずっと嫌いだった。大きな声だし、口うるさくて、いい加減でいつも振り回されてた。構って欲しくない時に限って近づいて来るし、一緒にいるのが堪らなく嫌だった事もあった」
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