《短編小説集》
□「ダイヤモンド・ダスト」
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白い肌に紅い唇、細身のまぶい女だった。
するとふっと俺の方を振り向き可愛い声で話しかけてきた。
「旅行中?地元の人?」
「あ、えーと両方…かな?」
妙に色っぽい。思わず照れくさくなった。
そんな俺を見た彼女はクスクスっと笑った。
「私、茉莉って言うの。キミは?」
「創。創るって書いて[そう]って読むんだ」
「カッコイいね、創…」
彼女はそう、つぶやくように言うと近づいて唇を重ねてきた。
柔らかく少し温かった。
長いまつげ、ほんのり紅くなった頬…。
思わず彼女の体を引き寄せ抱きしめた。
俺達はホテルの部屋で茉莉と狂おしいほどに抱き合っていた。長い黒髪を優しく乱して…。
「茉莉、綺麗だ…。好きになりそうだよ。茉莉…」
「創、私はもう大好きよ。可愛いキミが…」
茉莉の少しひんやりとした体を温めるように抱きしめた。
「風邪ひくよ。もっとこっちにおいで」
「うん」
スレンダーな茉莉の体は強く抱きしめたると折れてしまいそうな気がした。
周りが明るく感じ、気づくと朝になっていた。
あ…、俺昨日…。
飛び起きると横にいたはずの茉莉の姿が無かった。
確かにいたよな?
あれは夢だったのか…?
シーツにほんのりと甘い香りが残っていた。
茉莉の髪の匂い。夢じゃない。ひとりで帰ったのかな。
彼女の余韻に惑わされ墓参りに行くのも忘れそうになっていた。
もうすぐ親父の命日だ。空港で買っておいた焼酎を手に墓参りに行くことにした。