「麝香(ジャコウ)-MUSK-」
□第1章 Y
2ページ/11ページ
変な形をしていて、まるでうつ伏せになった人間が後ろ手に縛られたようにも見える。
傍まで近づいて眺めてみた。
何重にも乾燥した薄い殻のような物が全体を被い、大きさは俺の背丈ほどもある。
発光は息をするように点滅し、近づくと次第に速度を増していった。
その時、けたたましくドアを叩く音と開けろと言う怒鳴り声が聞こえてきた。
春奈と俺は顔を見合わせる。
「警部だ、見つかった」
「どうしよう、駿吾。あたし達、捕まっちゃうの?」
切羽詰まった春奈は俺の後ろに隠れようとする。
暫くすると銃砲を撃つ音が聞こえた。
恐らく鍵を撃ち壊したのだろう。
数人の足音が聞こえる。子供部屋には鍵がない。もう逃げも隠れも出来ない。
「駿吾、見て。ほら、何か動いてるよ。これ」
「ええっ?」
弱々しく震える春奈の声で、思わずさっきの物体を振り返った。
全体が細かく振動し始め、怪しげな光が素早く点滅したかと思うと急に動かなくなり暗くなった。
その静けさに途轍もない戦慄を感じ、固唾を呑む。
暫くすると上部の中央に亀裂が入り始める。
驚愕にうろたえて声さえ出ない。
「高橋、あの女は何処へ行った。隠しても無駄や、出て来い」
「いやーっ!」
春奈は耐え切れず何度も叫び声を上げる。