「マグノリアの咲く庭」
□5.氷 解
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誰もいない家に帰り、畳の上に封筒の中身を全部出した。
戸籍謄本のコピー、近畿地区の地図、電話帳からちぎったと思われるページ。
僕が大きく写った、遠足に行った時のスナップ写真。
アドレス帳、レポート用紙の走り書き。現像されていない二十四枚撮りのフィルム、拡大された淡路島の地図。
そして僕が書いた系図が入っていた。
電話帳の名前を見ると藤原と載っている所に赤ペンで印が付けてある。
よく見ると藤原総一郎が四人いて一つに丸印が付けられていた。祖父の名前である。
それを見て思い出した事があった。
以前、先生から電話が掛かって来たと祖母が言っていた事を。
同じ故郷で話が盛り上がったと、嬉しそうに話していた祖母の顔が脳裏に甦る。
僕が書いた系図を見た。
名前の横に電話番号が書き込まれている。
写真の中の僕は嬉しそうに朗と肩を組んでいる。
レポート用紙の走り書きには見知らぬ名前や、神社の名前が書かれている。
地図を見た。
津名郡一宮にある神社に印が付いている。他にも多数の印が付けられている。
先生が何をしようとしていたのか、その時初めて知った。
事の重大さに動揺し、胸が締め付けられる痛みを感じた。
『死』の不安から逃げられなかった自分に対し、彼が危険を冒してまで取った行動に平伏した。
「僕のせいだ。僕のせいで先生が…」
戸籍謄本を見た。
両親と僕の他に聞いた事もない名が載っていた。
――次男、樹希(イツキ)昭和五十五年五月三十日死亡――
この目を疑った。