《短編小説集》

□「ダイヤモンド・ダスト」
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 釧路空港から出た俺はコートの襟を立て、阿寒湖へと向かうバスの時刻表を見た。
まだ時間がある。

内ポケットからマルボロを取り出し深々と味わったあと、ため息と一緒に紫煙を吐き出した。

故郷を家出同然で東京へ飛び出したのは18の頃だった。

早くにお袋を亡くし、親父は肝臓病で姉貴が世話をしていた。

親父のやっていた料亭は他人の手に渡り、跡継ぎになれる訳でもなく逃げ出したんだ。

おっと、バスが来た。

飲みかけの缶コーヒーを飲み干し煙草の火を消した。
ホテルに着いたらワカサギ釣りにでも行こうか。

溶けかけた雪で滑らないように革靴に滑り止めをつけた。

雪が降る日は意外と温い。阿寒はマイナス20℃にもなるけれど…。


バスがホテルの前に着いた。もう今日は遅い。久し振りに温泉に入ってゆくか。
チェックインした後、近くの阿寒湖畔温泉に行って見た。

「今晩はー!」

入口を開けたら聞き慣れたオバさんの声が聞こえた。

「あぃやー!御坂さんちの創ちゃん?暫く見て無かったと思ったら、イケメンになって〜!しばれるねぇ、温もっていってよ」

「オバさん、全然変わってないね!まだ若いな!」

「また、そんなこと言って!今、いくつになったべ?」

「俺?26だよ、東京で会社作ったんだよ。弱小だけどインターネットの会社。あ、オバさん。覗かないでな!」


懐かしい温泉、昔はよく親父と一緒に入ったな。もういないけど…。

姉貴はまだひとりなんだろうか。旅館の中居をしてると聞いたな。

温泉を出たらまた雪が降っていた。
髪が凍ってしまうな。

近くのコンビニでビールでも買おうと道を曲がると、髪の長い女性が空を見つめていた。
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