「麝香(ジャコウ)-MUSK-」

□第1章 U
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 いつもの岩園並木道を通り過ぎ、赤信号で待つ。ただ一軒の配達に先を急いだ。

山村先生の邸宅前を過ぎる。利賀邸のドーベルマンは昼寝中か姿が見えない。
さっさと済ませてしまおうと杜邸を訪れた。

 門に触れると開いていた。薔薇園の中を進む。霧が出てきたようで辺りがぼやけて見える。
立派に装飾されたドアに近付き、そうっと引くと鍵が掛っていなかった。
黙って入るには気が引けるが誰も出て来ないので仕方がない。


「杜さーん。宅急便ですよー、入りますよー」


人気のない御屋敷内へ足を踏み入れる。
勿論、土足であろう。下駄箱など見当たらない。一般庶民には到底理解出来るはずのない世界である。

 高い天井から煌びやかなでかいシャンデリアが吊るされ、螺旋階段が二階へと続く。

優美な曲線を意匠した装飾窓は天井から床にまで広く取られ、明るい印象を受ける。

 マリーアントワネットでも出て来るのではないかと思えてしまう部屋である。

 この豪邸の主人を探す為、隣の部屋に移った。
部屋に入ると行き成り動物の剥製が目に入り、びっくりしてしまった。

鹿にも犬にも見えるが角がなく、鋭い牙を持ち耳が大きい。

体長は1mほどで小型だが子供なんだろうか。

他にも鷹らしき剥製が飾られている。

気味が悪いな…。
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