「麝香(ジャコウ)-MUSK-」
□第1章 Y
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縄ばしごを上がりつめた場所には屋根裏部屋が存在していた。
蜘蛛の巣が張り巡らす場所を想像していたが、人が住める部屋があるとは夢にも思わなかった。
部屋は薄暗く、小さな天窓から照らされた部分だけが明るく見える。
何の目的かは知らないが元々あったこの部屋を隠すように改造したようである。
隣の部屋と天井が繋がっているようで意外と広く、太い支柱だけが何本も剥き出しになり目立つ。
山小屋を彷彿させるような裸木の床には絨毯もなく、簡素でガランとした印象を受けた。
春奈の指差す先へと目を凝らした。
グランドピアノの真上ぐらいだろうか。
低い簡易ベッドがあり、そこに横たわる得体の知れない物を発見した。
生物か岩かも判断しかねる物質で、全体に丸みを帯びた巨大なフットボールのようであった。
表面は黄橙色で、所々に茶色の横縞模様が見える。
中心核部分がほのかに発光し、怪しげな雰囲気を醸し出している。
「な、何だ、これは…?」
生まれてこの方、こんな奇妙な物を目にしたのは初めてだった。
悠璃を探しに来たはずなのに、肝心の彼女は何処にもいない。この光る塊は何なんだ。おまけに結構でかい。
おののきながらも一歩ずつ近づいてみる。不気味に光ってはいるが、動く様子もなく何の音さえも聞こえない。