「麝香(ジャコウ)-MUSK-」

□第2章 震撼の果て T
1ページ/22ページ

春奈と駿吾は別々のパトカーに乗せられ、邸宅を後にし警察署へと向かった。

 花岡警部に連れられた駿吾の横顔からは悲壮感が漂っていた。春奈はそんな彼をじっと目で追って見つめていた。


 警察署に着くとあたし達は取り調べを受けた。駿吾は共犯の罪を疑われていたけれど、証拠不充分で、シロだと判定されて釈放された。

あたしは共犯ではないけれど、犯人隠匿の罪をきせられそうになった。
冗談じゃない、証人の筈なのに。

あたしの見ている前であの女を殺した駿吾は罪には問われなかった。花岡警部も田所刑事も目撃していたのだったにも関わらず。

彼等は口を揃えて悠璃は自害したと言い張る。確かにあの女は死を望んでいたし、駿吾が殺人犯のレッテルを貼られるなんてあたしだって耐えられない。

こんなに好きになった男性なんだから。

ドライバー連続失踪事件と名付けられた一連の事件は、犯人であるフランソワ・悠璃・モリエールが死亡した事に寄って終止符をうった。

あの女の死体は解剖された。発見された被害者の遺体も司法解剖が行われた。

でも、26人にも及ぶ被害者の内、あの屋敷内から出た遺体はたったの5人だった。詩織の兄貴はその中のひとりだ。

死人に口なし。全ては死んだあの女しか知り得ない事だった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ