「麝香(ジャコウ)-MUSK-」

□第2章 U
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 スロットルを握り締めた俺は向かい風の中を走ってゆく。

いっそこのまま何処かへ消えてしまいたい。あの世でもいい。苦しみのない世界へ旅立ってしまいたい。

速度メーターが上がってゆく。
悠璃、俺を迎えに来てくれ。貴女のいない世界は辛すぎる。先輩ではなくて、俺を手に掛けて欲しかった。

先輩の遺骨の前であんな事して、俺は罰当たり者だ。
…ごめん、先輩。俺はもう駄目かも知れない。

何処かに突っ込んで自殺するつもりだった。実際にはそんな勇気もなく、やがて自分の住むアパートに戻って来た。

荒々しい運転をして悪かったな、おまえは一番の理解者だな。
APEは 何も言わずに俺の味方をしてくれる。

 サイドミラーにメットを掛けて、さびれた階段を上がりきると部屋の中から掃除機の音が聞こえてきた。

一体誰が来たんだ?

鍵が開いている。
躊躇いもせず勢い良くドアを開けると、玄関先にどこかで見たような革靴が並んでいた。

すぐさま部屋に上がると、そこには美紗緒ネエがエプロン姿で掃除機をかけていた。俺の顔を見るなり嬉しそうに微笑みを向ける。

「おかえり。遅かったね。今、バイト終わったの?」

「美紗緒ネエ、何してんだよ。こんなとこで」
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