「麝香(ジャコウ)-MUSK-」
□第2章 V
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講義が終わった後、あたしは駿吾に謝りたくて探していたけれどバイクも無かったので諦めていた。
あたしは生きてる価値のない人間なんだろうか。アイツに言われた言葉を思い出す。
『もっと、詩織の気持ちを考えてやれよな』
『おまえは人を愛した事がないのか?』
『女のおまえに俺の気持ちが判るわけないんだよ』
『壊れそうなくらい傷ついた事がないのか?』
深い溜め息をついた。重い足取りで駐輪場へ戻ろうとしたら、駿吾と一緒にいたあのケバい女に遭遇した。友人と2人だった。
あんなインパクトの強いヤツ見間違える筈がない。
「ちょっとあんた、待ちなさいよ」
勢い良く呼び止めると2人はあたしの方を振り返った。
豹柄のバッグを持った女が鋭い目で睨みつける。
「何よ、あんた」
女は思い出したかのように、いやらしくにやついて見下す。
「ふん、駿吾の恋人ってガラじゃあないね。ダッサイ面してさあ、私は諦めないからね!私の身体は駿吾のすべてを知ってるんだから。スッゴく激しいのよ、キスだけでもイッちゃいそうなんだから。終わった後、『瑠華のは最高だよ』って、必ず唇を指でなぞるの。その時、ぞくって来るんだから」
自信満々の瑠華ってヤツは赤裸々な話をする。衝撃に思わず耳を塞ぐ。あんなの嘘に決まってる、そう思い込もうとした。