IFの世界のIFの話

□語られなかった話
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その日の私は人類最古に武器の発注を済ませ、パトロンからむしり取った資金を片手に、宿泊しているホテルに戻る途中だった。


「ん?」


雨の中、傘もささずにブランコを漕いでいる少年を見つけた。
私はその少年が気になり、声をかける。


「少年、そんな所で何をしているんですか?」
「………え?」
「少年ですよ、少年。少年以外に少年はいません」
「俺?」
「はい。私は詐欺師な紳士(ノットファントム)の白識と言います。少年は?」
「……比呂士。本田……じゃなかった。柳生比呂士」


比呂士と名乗った少年が名字を言いなおした事に首をひねりながらも、傘を差し出す。


「?」


不思議そうに比呂士は私を見上げた。


「これ使いなさい。風邪を引いたら親御さんも心配するでしょう」
「心配してくれるお父さんはいないから平気」
「お父さん、いないんですか?」
「お父さんはいるよ」


ちょっとしたナゾナゾのような答えにもう一つ質問を重ねた。


「少年は家族が嫌いですか?」
「家族に好き、とか嫌い、とかあるの?」


その答えに安堵しようとした瞬間、信じられない続きが比呂士の口からこぼれた。


「本当じゃない物に好きとか嫌いとかあるお兄さんって変わってるね」
「え?」


本当にテレビの話をしているかのように笑っている比呂士を驚きの表情で見返す。
私が驚いている理由も分かっていない様子でブランコから立ちあがる。


「そろそろ帰らなきゃ。ばいばい」


そして、そのまま雨の降る夜の街へと消えて行った。
私の心に引っかかりを覚えさせたまま。







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