戯言な戯れ事

□釟の爾
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あれから練習に戻った氷帝レギュラー陣の様子は少しおかしかった。
おかしい、と言っても極一部の人が、だが。


「向日君、どうかしたの?」


休憩時間に弔狙が向日に話しかける。
戯言使いの暗躍によって弔狙は先ほどあった騒ぎを知らないのだ。


「いや、なんでもない……なあ、木更津」
「なに?」
「例えば、お前と仲が良かった奴が実は殺し屋でした、なんて言われたらどうする?」


あまり仲が良くない、言ってしまえば今回が初対面であるからこそできる質問だった。


「何だい? その例えは」
「いいから!」


相手が殺し名に名を連ねる、匂宮の人間だとは夢にも思わない向日はクスクス笑われた事に腹を立てた。


「俺だったらどうもしない」
「『どうもしない』?」
「そう、『どうもしない』。きっとそいつが俺に見せてる顔も、殺し屋の顔も同じ素の顔だと思うし」


心の中で俺達がそうであるように、と続けた。


「でも、でも、目の前で人を殺したりしても同じ事が言えんのか!?」
「うん」


考えるそぶりを見せずに答えた。
きっとそれはそうであって欲しいという願望だったのかもしれない。


「きっとそいつにも訳があっただろうし。例えば、大事な仲間が殺されそう、とか」
「あ……」
「氷帝に暗殺者でもいたの? クスクス」
「べ、別に、そんなんじゃねーよ! 変な事聞いて悪かったな、じゃ!」


あからさまに動揺した向日は走ってダブルスパートナーの元まで行ってしまった。


「俺も、きっとサエ達が殺されそうになったら……」


氷帝で何かあって泥睡が正体をばらしたのだろうと考えた。
その考えの末に出てきた想いが匂宮の人間としてあってはならない、と自制するかのように頭を振る。




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