捧げ物

□28000キリリク
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「ゲームセット、ウォンバイ立海大付属」


一月に少なくとも一回はある、交流戦をいつものようにストレートで勝利する。
そして、いつものように皆で喋りながら帰路についていた。


そんな冬のある日、それは起きた。


中学生である彼らはその日も真っ直ぐ帰っている途中だった。
先頭に仁王とジャッカルが立ち、最後尾には幸村と真田が。


「次の電車は……46分か。まだ時間はあるね」
「この時間はすぐに来るから有りがたいな」


なるべく邪魔にならないように、端を歩きホームを目指す。
階段の途中で、不意に幸村が立ち止まったのに誰も気がつかない。


「帰りに薬局寄ってよか?」
「薬局?」
「カイロが切れて寒いぜよ」


わざとらしく体を震わせる仁王。
ポケットから取り出したカイロを握りしめたまま。


「うぅ、冷たい……」
「大丈夫か?」


そう言って、ジャッカルはカイロごと手を触った。
冷たいという割りには、充分に温かさが残っている。


「なあ、仁お「幸村!!」」


何かが落下する音がしたかと思えば、突然真田が叫んだ。
それに連動するかの様に、仁王も白い顔を余計白くさせて膝をつく。


「仁王!?」
「わし、は、大丈夫じゃけ。それよか、幸村を」
「でも、」
「私が付いてますから」
「わ、わかった……」


後ろ髪を引かれながらも、ジャッカルを追い払った仁王に、柳生が寄りそう。


「ゾレアか」
「『二重の 十全に 導け 満ち引け 大いなる 愚者 魔術師 女教皇 女帝 皇帝 法王―――――』」


柳生に支えられながらも、小さく頷く。
周りに気を配る余裕もなく、可能な限り早口で詩歌を紡いでいる。
途中で意識を飛ばしかけながらも、心臓を止めそうになりなっても止まらない。

否、とめられない。

ここで止めてしまったら幸村の中に眠っているもう一人の人格が覚醒し、二つの不完全なイノセンスで対抗せざるを得なくなるからだ。
唯一倒す事のできる可能性を秘めたイノセンスも、その使い手も、今は居ない。


「『――――星 月 太陽 審判 導け 満ち引け 二重の 二十の 超えて 肥えて 世界を越えろ』!!」


柳生が幸村の方に目をやると、穏やかな顔で薄っすらと目を開いている様だった。


「セイはもう大丈夫だ。お前ももう休め」
「悪い。後は……頼、む」


その言葉を最後に、殆ど開いていなかった眼が完全に閉じられた。







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